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(丸山芳子)“精神の<北>へvol.3”の最後、三組目のクロストークです。(いよいよ、私の出番。)
【2014/9/7】異分野クロストーク 3『けものよ、ここにヒトがいます』 丸山:最初にアーティスト3人が昭和村に菅家さんを訪ね時に、山道で見つけた獣の糞が熊かも知れないということで、菅家さんが山に向かって発した声が、このトークのキャッチコピーに「けものよ、ここにヒトがいます」とつけた理由のひとつなんです。 菅家:南会津では毎日熊が出て、昭和村でも昼間から稲穂を食べていますね。人口圧が減るのです。人が山に入らない、火を使わない文明になりつつありますよね。獣は見ていたはずなのですよね、「人が住んでいるところから煙が出ているからちょっと怖い、気をつけねば」と。今はそれがないので、結界が分からなくなって簡単に獣が入ってきます。“北”というのは野生、ワイルドなものですから、人間の圧力で押し込んでいたものが、今押し返されている。野生の立場からすると復元で元に戻るだけかなと思います。 丸山:キャッチコピーのもうひとつの理由は、昭和村の自然現象がかなりインパクトがあったこと。一面の空と一面の大地という場。雨の後、水蒸気がワアッと一斉に空に還っていく現象。そういう環境の中に身を置いて、自分の存在の基本に立ったみたいな印象だったんです。 それと、菅家さんのご専門の地域学というもので、猟師さんから聴き取った沢の名前、岩の名前を一つ一つデータ化して、後に残すために尽力されたこと。それから「会津物語」。 菅家:昭和村でも沢山遺跡があり、8000年前から人々が住んでいるところに、現代どうして人が継続して暮らせないのかというのが私の疑問で、専業農家なのですが、やっていけるのではないかなと。その時に福島県立博物館に赤坂憲雄さんがいらっしゃって、・・(促されて)聴き書きを中心としてお年寄りからいろんなお話を聴くことで会津学という雑誌を出すことになったのですね。3年前からこれも赤坂さんの提案で朝日新聞に「会津物語」を書いたのですが、まず語ってくれたお年寄りの実名で出す。育った社会背景を認識して頂くために、何年生まれとかを書く。語り言葉で記録するということをやりました。赤坂さんの注文は合理性のない話、科学的でない話、不思議な話ということ。科学的なものしか認めないというのを見直した方が良いというのが全体のトーンになったと思います。 丸山:話に出てくる頻度が高いのが狐ですが、話者は狐の姿を実際は見ていないのですよね。 菅家:「狐に化かされた」と言うと納得され、社会通念として追求しないという合意が多分あったと思うのですね。狐に盗られたということで…多分落としたり、買わないで酒を飲んだかもしれないですね。(笑)もう一つ、「買い物に行ったけど、お金がないので買えない」のではなく、「買ってきたのだけれども途中で落とした」というのは素敵な表現だと思います。 私は20代で農家をやる時に、宮沢賢治が農業指導者としてやっているので結構行きました、花巻には。彼は農をどう捉えていたのか?私もギターを弾いて歌を作ったりしているので、音楽や芸術論とかもやっている賢治が非常に気になりますね。 丸山:私達アートをやる側からのリサーチの対象となって、どのような感想をお持ちですか? 菅家:アーティストとか理屈でない回路で伝える仕事をしている人達の役割というのがあると思うのです。ですからいろんなところを案内してどういう形になるのかを見るのは非常に楽しみで、今回もこういうふうに直感に訴える、感性に訴える手法を持っている。社会の見えない変化を提示できますよね、アーティストは文字で書いている人以上に敷居が低い、訪れやすい表現方法なので。だからああいう(作品を指して)聴き書きした地名を張り込んだような表現をされるとは思ってもいなかったのですが、そういうこともやっていいんだ!単純だな…と(笑)。あともう一つ、懐かしい色というか、記憶の色、人々の記憶を固定するのですが、上手く表現しているのではという感じを受けています。 丸山:では、菅家さんがイメージされる“北”とは何でしょうか? 菅家:私が10代の時に感じている“北”というのは、差別される方向ですよね。例えば職業で言うと農業、住んでいる場所であると、都市から言うと農村だし、農村の中で言うと平坦地より山間地…と、向いている方向がネガティブというかマイナスの方向でしょうね。 20代30代になってきますと、“北”というと希望の光というか、目指すべき方向。だから背骨みたいのものですかね。見えないけれど大切なもの、そういうのが“精神の北”ですね。特に“精神”と付くのがとても大事な気がします。 葉羽 このクロストークの詳しい内容は、来年発行される記録集に掲載される予定です。三つのクロストーク、皆さん、お疲れ様でした。
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