「ナオ･･･俺達の聖地に帰って来たよ･･････。」

　その日僕はナオが亡くなって二年ぶりに公のゲレンデに帰ってきた。　そして話は、ナオが倒れた直後にさかのぼる・・

　今日も一人で車を転がしている。
　第二ホームの苗場山に向っているところだ･･･

苗場スキー場

　昔は良く、ナオと通った場所だ。
　その三国峠を一人で越えて行く･･･

　それは、ここで得意技をひそっり、コソコソ練習する為だ。
　これを「コソ連」という。

（悪魔の声） 結果が出た時に「努力しました！」なんてカッチョワルイ！

　新しいカービングスキーの登場で、
　僕の滑りはぐちゃぐちゃになっていた。

　遅ればせながらも、再びこれに挑戦し、
　何とか自分を取り戻さなくてはならない。

　しかし･･･
　ナオが滑れなくなって、本当に困った。

　と言うのも、彼が理屈を考えて、
　僕が実践するというのが、俺達のスタイルだったからだ。

夜明け前の苗場

　僕がナオの指示通りに滑り、
　試合に勝ったり、検定に受かったりすると、
　彼はホントに自分の事のように喜んでいた。

　彼は兄弟であり、コーチであり、トレーナーだった。

「ユキ、仰角を５度位与えて、大腿で加圧してやって、同時に全体重で板に荷重するんだよ！」

「よし判ったナオ、ちょっと捻ってやって、押しつけたら身体を追っ付けていけばいいんだな！？」

　この宇宙語と福島弁みたいなのが、俺達の会話だった！

「すげぇよナオ！　板がキュイーンって曲がる上に恐ろしく走るんだ！」

「ウンウン、回頭性も、滑走性も数段向上したな！」

キュイーンとね♪

　彼の運動能力が低かった訳ではない、
　僕より滑る時間が少なかっただけだ。

　彼は仕事を一生懸命にやって、余暇に雪山を愛していた。
　僕はスキーを一生懸命にやって、余暇に仕事をしていた。

　そのナオが居ないのは辛い。
　僕は、始めて一人でスキーを考え直さなければならなかった。

　短い板に悪戦苦闘しながら･･･。

短い板で“コソ連”中 （in 苗場）

　だけど、負けたままで終わるわけにはいかない。
　だって、このままじゃぁ、
　ナオに顔向けが出来ないじゃないか･･･。

　そんなこんなで、僕は二年間、
　第一ホームの栗子山（山形）と第二ホームの苗場山（新潟）を
　一人で過ごしたのだった。

「ナオ･･･俺達の聖地に帰って来たよ･･････。」

　二年ぶりに、僕とナオの想い出のゲレンデ、
　市川市（千葉県）の市民スキースクールに帰って来た。

　そうさ、僕たちの思い出の
　フェニックス・ｙａｍａｈａチームのウェアを着込んで！

　だってさ、ナオ･･･今日は君とお別れをするために、
　ここへやって来たんだものね･･･。

二年ぶりの講習風景 （in 菅平高原スキー場） ←思い出のウェアを着込んで。

　しかし、二年間も公の場所に出ていないのにさ、
　いきなり、主任講師だってさ！

　本当に笑わせるぜ！！！
　人手不足は判るけどね！･･･スキーをなめてやしないか？

　だいいち、俺がちゃんと滑れるかどうか、
　判らないじゃあないか！

（悪魔の声） もちろん、ちゃんと滑れるよ！公的立場で参加するんだからね！

　あーあ、道具は変っちまうし、ナオは居なくなるし･･･

　でもね、ナオ、今日、君をここに連れてくるために、
　二年間も一人で苗場山・栗子山に通い詰めたんだ。

　訳ぇ、判らないからさ･･･
　ＨＳＴ（ハイスピードトレーニング）ばかりやってたんだ。

　まるで、火の玉みたいにさ！

火の玉みたいに

　それで、運動の方向・時間・強さの三要素を整理しなおしたんだ！
　なんのこたぁない、基本通りだったよ、

　ちょっとだけ、ズレてただけなんだ！
　ビビッテ、損しちまったよ！

（そして、すんごぉ～く、孤独だった！！）

　ＢＯＯＴＳはライケルにしたよ、
　シェルはカタログモデルで
　インナーだけオーダーメイドにしたんだ。
　お金ないからね！

　板は、大回り用にフィッシャーのＲＣ４、
　御決まりのメタルだよ。

　小回り用にディナスターの４Ｘ４、
　始めてのエクストリームモデルにしたんだ！

ライケルのエフ・ワン子 ←長年、連れ添ってしまった･･。

　ナオ、俺達はエレガントスキーを目指して
　パッシブに滑ってただろう！？

　少し変えたんだ、
　アンティシペーション（先行動作）を早目に大きく取って、
　アクティブに少しだけ攻めるようにしたんだ。
　ちょっと早くなったよ！

　今日、その滑りをナオに見せるためだけに、
　二年間こっそり練習してたんだ！

　とにかく、やっと、ゲレンデに戻ってきたんだよ！
　見てくれているかい？

　初日の講習は終わった。

　僕は、ナイターで裏太郎ゲレンデにやって来た。
　ほら、良く俺達が陣取って練習してた場所だね。

　僕は、いつものその場所に立って、
　アッチから預かってきた君を･･･

　僕は君を･･･泣きながら散骨した。

さらば友よ （ナオ）

【エピローグ】滑り続けて･･･

　久々に選手権に出場した。
　アルペン競技でもないのにヘルメット着用の選手がいる。

（悪魔の声）  基礎スキーでバカじゃねぇのぉ～

　とんでもねぇ･･･
　限界速度が恐ろしく上がっていた。
　トッププレーヤーは僕の２倍は進む。

　転倒した選手はといえば、ハイ病院行きぃ～
　競技経験者でなければ、勝てなくなっていた･･･。

リベンジ （二年ぶりの復活）

　ナオ、僕はね、プレーヤーはやめちまったよ。
　今はね、君みたいにスピーカーになったんだ。
　後進や子供達に教えてるんだ。
　千葉からワールドカッパーが育つといいね！　

　でもさぁ、遅いくせに
　偉そうに教えてる俺ってナニモノ？？？？？

　だけど、みんな雪の中で楽しそうに
　シアワセそうに笑うんだ。
　なんだか、ナオの気持ちが判った気がする。
　やめらんないよね･･･

　･･･って、ホントは俺はゼッケン着けたいんだよぉ～
　金も身分もいらない！！！
　俺に若さをくれぃ！！！！！
　泣いてたまるかぁ！
　楽しいんだぞ～スキーって！！！

俺たち27歳 （朱雀＋ナオ＋next-one） ←全てはここから始まった！

　あのね、秘密なんだけどね･･･
　資格を隠して、草レース荒らししてるんだ。
　賞品が付いてたりして、燃えるぜ！

　同級生に写真家がいてさやっと個展を開いたんだ。
　ピカピカに光ってシアワセそうだった。
　そしたらね、これまた同級生の女の子がね
　マメシバっていうんだけどさ、

「光ってたねアイツ」って一緒に話してたらさ･･･
　自分のフィールドに気付いちまったんだよ。
　だから、ずっと滑り続けていたいなって思うんだ！

　上を向いたらキリがない 下を向いたらアトがない 泣いてたまるかっ！ 夢がある

（by 朱雀ＲＳ　2012.11.11 リニューアル・アップ）

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