ん・・マグロ! by 葉羽
親父、何にする? ん・・マグロ!
親父、何食べる? ん・・ラーメン!
散々、回転するレーンを眺めた挙句、
そして散々、食堂のメニューを眺めた挙句、
注文するのはいつも同じだった親父
正直、そんなアンタが恥かしかった
だけど今にして思うよ
二十歳そこそこで
大きな借金だけ残して
父親が先立ち 家を失くして
母親と妹二人を支える
大黒柱にならなきゃならなかった
そりゃあ、大変な人生だったろうよ
思えばあの頃、凄いとろこに住んでたなぁ
水道も便所もない農家の古い小屋を借りて
粉を焼いて削り節と醤油をかけただけの
お好み焼きが我が家のご馳走だった
しかも、そんな中で生まれたオレは
病気のデパートで虚弱体質
「三歳までは生きられない」と
医者の太鼓判をもらったんだっけ?
そんな夢も希望もない生活の中、
マグロの寿司やラーメンなんか
夢のご馳走だったんだろうな
戦後九年、70年前というのは
そんな時代だった・・
周りもみんな貧しかった・・
妹たちを嫁に出し
ようやく生活が上向いて来ても
注文するものは変わらなかった
それこそ一生そうだったな・・
今になって思う
あんな苦労をしながら
俺たち三兄弟を育てたアンタを
恥ずかしいと思った自分が恥ずかしいと・・
本当に恥ずかしいと・・
今頃 空の上でどうしているんだい?
やっぱり ん・・マグロ! なのかい?
いいじゃないか 恥も外聞も飛んでいけ!
いつか オレがそっちに行ったら
また二人で 天国の回転寿司を喰いに行こうな
いいじゃないか 恥も外聞も飛んでいけ! |