鞍馬 Wikipedia(ウィキペディア)というサイトがあります。
Web上の百科事典のようなもので、日本語、英語を含む28の言語で書かれています。しかも、それらすべてがボランティアの手により作られています。
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Wikipedia
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記事の信頼性については、Nature誌の調査において、Britannicaという百科事典と同等である(裏返して言えば、Britannicaにも同程度の間違いがあるということ。)と評価されたという報道もなされています。
この真偽はさておいて、私は最近本当によくWikipediaを使っています。個人的にも仕事でも。その中で、特に興味深く読んでいるのが「秀逸な記事」です。
◆ 秀逸な記事
「秀逸な記事」には、自薦、他薦を問わず、よく書けた記事だと思う記事の推薦を受け、管理人達の選考を通過したものだけが掲載されます。
2006年2月9日現在で約180,000本の記事がある中で、選考を通過したものはたったの62本ですので、その競争率は実に3,000倍の狭き門です。
その中で、今日私の目にとまったのは、「天動説」という記事です。
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プトレマイオスの宇宙
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「天動説と地動説のどちらが正しいか?」という質問をすると、たいていの大人は「地動説が正しい。」「天動説は間違っている。」と答えるはずです。
ですが、この記事を読むと、実は天動説はかなりいい線までいっていたということに気付かされます。
◆ 本当の意味での天動説
「天動説とは何ですか?」と聞かれると、これまたたいていの大人は「すべての星々が地球を中心にしてその周りを回っているという宇宙観。」と答えるはずです。
私もその中の一人でした。
ですが、当時の学者達もそれほど無能ではなく、星々が同一の円を描いているわけではないことに途中で気付いてしまいます。
そのため彼らは、宇宙には大きさの違う無数の丸い板、つまり「円」が存在し、それらが重なり合って、さながら遊園地にあるコーヒーカップの様に回転しているために複雑な運動を繰り返すのだと考えました。
その結果、あとからあとから観測される不可解な星々の運行を追認するために、最終的には数十もの円が考え出されたとされています。
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実はこれ天球儀
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無駄なことをするものだなと思いますが、宇宙には無数の銀河、つまり「円」が存在していて、それらすべてが相互に影響し合って複雑な円軌道を描かせているという現在の宇宙観に通ずるものがあります。
地球が中心であるという点を除いて考えれば、そのアプローチは間違っていたもののかなりいい線いってたということです。
もっと言うと、現在の宇宙観では、地球を含めた天が動いているわけですから、本当の意味での「天動説」が完成したと考えることもできます。
◆ 百科事典を越えるもの
ところで、私がこの記事に心打たれたのは、単に天動説の新たな側面を発見できたからではありません。
記事の結びの部分で、筆者は地動説を一方的に真理として教えてしまうことの是非についても言及しているのです。
つまり、地球が動いているという事実よりも、人間がこの結論にたどり着くまでの千数百年に費やした労力の尊さを教えるべきだといっているのです。
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ガリレオ・ガレリイ
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本来辞典というのは、事実を教えることがその主な機能であるはずです。
それに全く逆行するような考察が書かれている辞典が存在することに、大変驚きを感じました。
そういう点において、Wikipediaはすでに既存の百科事典を越えてしまっています。事実だけが書かれている百科事典よりもずっと教育的です。
私も、答えは教えればいいというものではないという信念を持っています。なぜならば自分で考えられる人に育ってほしいからです。
天動説の記事を読んで、そのことを強く思い出させられました。
皆さんもこんな素敵な百科事典の編纂に、一役かってみてはいかがでしょうか。
鞍馬【2019.8.19 リニューアル・アップ】
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