【常緑音楽館便り】#1166 パルム・ドールつながり?
7月1日現在で観客動員数が252万人に達し、興行収入が30億円を超えた「万引き家族」の是枝裕和監督が、次回作(仮題「La Vérité(真実)」)にフランスの女優Catherine Deneuv(カトリーヌ・ドヌーブ, 1943-, 74歳)を主演として起用するという。
是枝監督がドヌーブと? 意外な組み合わせに目が点だ。
ドヌーブは今や押しも押されもせぬ世界の大女優。出世作は1964年公開の「Les Parapluies de Cherbour(シェルブールの雨傘)」。
アルジェリア戦争時のフランスを舞台にしたこの映画は、第17回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを獲得した(ドヌーブ自体は受賞していない。)。全編音楽のみで台詞が一切ない完全なミュージカル。
カンヌ映画祭はもともと、ファシズム政権のムッソリーニが作った「ヴェネチア国際映画祭」に対抗し、フランス政府の肝煎りでできたもので、出発点から政治が絡んでいて、いまでも政治的な映画も紛れ込む。
カンヌの最高賞の名前は、時代と共に変遷している。
1939年~1954年は「グランプリ」、1955年から1964年までは「パルム・ドール」になり、1965年から1974年までは再度「グランプリ」に、そして1975年から再度「パルム・ドール」とされ、1990年からは最高賞ではない審査員特別賞に「グランプリ」の名を付けて今日に至っていて、紛らわしい。
一部メディアで「グランプリ」受賞とあるが、この映画は1964年なので「パルム・ドール」が正しい。
音楽担当は、Michel Legran(ミシェル・ルグラン, 1932-)。
「風のささやき(華麗なる賭け)」「おもいでの夏」、「愛と哀しみのボレロ」、「ネバーセイ・ネバーアゲイン」、『ロシュフォールの恋人たち』、「女と男のいる舗道」、「太陽が知っている」、「ビリー・ホリディ物語」など名曲が目白押し。
この映画では、出演者が皆素人なので、全部本物の歌手の吹き替えとなっており、主題歌もドヌーブではなく、Danielle Licari(ダニエル・リカーリ, 1942-)が歌っている。
リカーリはその後、「Concerto pour une voix(ふたりの天使)」(既出)を大ヒットさせた(1970)。
と、ここまできて、「万引き家族」もパルム・ドールを受賞しているから、2人の関係は「パルム・ドール」つながりだったのか、とようやく合点がいった。
是枝監督、前置きが長くて申し訳ありませんが、違いますか?
Evergreen Music通算1166曲目は、「シェルブールの雨傘」。
映画の音声トラックをそのまま記録した、本当の「オリジナル・サウンドトラック」である。英語題は「I Will Wait For You」。
♬ Je t'attendrai toute me vie..(Les Parapluies de Cherbourg) / Danielle Licari(OST)
毒舌亭(2018.7.25up) |