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 その20 ありえない色
「モーニングコーヒー」Benchi time

 日経サイエンスの5月号、「『ありえない色』を見る」という特集記事が目に留まりました。

 18世紀後半、経験論を代表する哲学者ディヴィッド・ヒュームは「新しい色を知覚することは可能か?」と問うたそうであります。

 人間の目には赤と黄色が混ざった色を「橙」、黄色と緑なら「黄緑」と認識できますが、“反対色”の関係にある「赤と緑」、「黄色と青」が混ざった色を認識できません。

 この原因について、19世紀後半のドイツの生理学者エヴァルト・へリングは、「色は赤と緑、黄色と青の間の拮抗によって知覚される」と説明しました。

ディヴィッド・ヒューム

 つまり、視野の各点で「赤(黄色)だ」・「緑(青)だ」という知覚が争っており、どちらかが認識された時点で逆の知覚は押しのけられてしまうというのです。

 このことは認知科学において、網膜の錐体細胞と中脳の働きから裏付ける研究も行われ、揺るぎない事実と考えられるようになりました。

 ところが!

 今回の論文を起草した米ゼネラル・ダイナミクス社のビロックと米空軍研究所のツォウは、その「ありえない色を強引に見せる実験に成功した」というのです。

 方法としては、左右を反対色に塗り分けられたプレートを被験者に見つめてもらい、その視線をアイトラッカーという装置を用いて網膜上の一点に静止させるというもの。

 さて、被験者には、どのような「ありえない色」が見えたのか?

アイトラッカー

(視線を探知する装置)

←実験に用いられたものではない。

 その捉え方は、実に様々でした。

 「両側の色の境界が消え失せ、流れ込んで混じり合うように見える。」

 「左端の黄色から右端の青まで次第に変化するグラデーションに見える。」

 「黄色と青の領域が同じ場所に、ただし奥行き的には異なる位置に見え、一方の色を透かしてもう一方の色が見える。」

 「視野全体に黄色みがかった青色や青がかった黄色が広がるように見える。」

 ~これが被験者たちの感想でした。

 そのあと話は別のほうへと脱線していくのですが…

 待てよ…どこかおかしい。

黄色と青?

 そもそも、この話は「反対色以外なら中間の色が見える」という前提に立っているワケですが、本当にそうなるでしょうか?

 例えば紅白に塗り分けられたプレートを両目で見れば、全体がピンクに見えるのでしょうか。

 そこで、実際にそういう色「黄色と青の混合色」を作ってみることにしました。

 方法は至って簡単。

 まずは、こんなものを用意いたしました。

黄色と青の市松模様

 この反対色の市松模様(多少、上のものと色合いは違いますが)を、どんどん縮小していって全体を大きくしたのです。

 つまり、点描画の手法で、色を混ぜ合わせようという作戦です。

 はたして、どのような色に見えてくるのか。

 その結果がこれです。

黄色と青の中間色

 あえて小さな市松模様が見分けられる程度にしてみたのですが、別に「初めて見る色」とは思えません。

 特別にキレイな色という訳ではありませんが、意外性もありません。

 何と呼ぶのでしょうか? 日本の“浅黄色”に近いですかね。

 そこまでやってみて、ハッと気付いたことがあります。

 僕がこのサイトを作るのに使っている画像編集ソフト「FireWorks」には、最初から任意の二つの色を混合する機能が付いていたではありませんか!

 で、同じように黄色と青を混合すると…

FireWorksでの色混合

←見やすいよう横に倒した。

 この図で左列一番下が青、右列上が黄色、その間は両者の中間色です。

 ほぼ同じような結果で、この大きさだとメジアンがグレーに見えなくもありませんが、実際にはちゃんと色が付いています。

 念のために、もう一つの反対色「赤と緑」のケースはこうなります。

 ちょうど中間あたりが同じようなグレーや無色になる・・・ということもなく、明らかに上の中間色とは別の色合いです。

FireWorksでの色混合

←赤と緑の場合。

 さて、これはいったいどういうことなのか?

 網膜の錐体細胞と中脳の研究から裏付られた揺ぎ無い事実ではなかったのか?

 ならば、「反対色の中間色は存在しない」という神話はどうしてできたのでしょうか。

 正確な答えは持ち合わせていませんが、一つだけ思い当たることがあります。

 それは…

 色の相関関係は伝統的に下図のような「色相環図」で表されています。

 「反対色」という概念自体、この「色相環図」を基にして定義されたのです。

色相環図

←マルセンシステムによる色相環。

 3原色や4原色という考え方に則って作られたのがこうした「色相環図」ですが、赤・黄・緑・青が時計回りに配置され、そもそも(いわゆる)反対色の中間色が存在することは想定されていないのです。

 だからといって存在しないわけではなく、例えばこの順番を赤・緑・黄・青と時計回りに配置すれば、そうしたマイナーな色を含む別の色相環図を作ることが可能です。

試しに作ってみた
配列を変えた色相環図

←赤、緑、黄、青を時計回りに。

 ということで、人類が長く親しんできた色彩配置はそれなりの合理性を持っているのでしょうが、その固定観念ゆえに、現に身の回りに存在するマイナーな色を「存在しないもの」として扱ってきた・・・と言えば言い過ぎでしょうか? 

 《配信:2010.4.11》

葉羽葉羽 ということなんだけど、ケイコ、どう思う?

ケイコ じゃ、絵の具持ってきなさい! 私がかき混ぜてやっから。

葉羽ええ~!!

 

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