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 その106 アートな巨大建築
「モーニングコーヒー」Benchi time

 コーヒーブレイク78で「アートな建築」を特集しましたが、今回はその巨大版のお話です。

 2020年東京オリンピックの開・閉会式会場となる新しい国立競技場がこの11月末に竣工しました。

 実は僕、改築が始まる前の国立競技場には以前の遺跡調査の関係で何度も足を運んでおりましたので、その意味からも生まれ変わる競技場の完成を心待ちにしていた一人でございます。

(すぐ近くにある「君の名は。」の歩道橋を何度も上り下りしていましたし(笑))

竣工した国立競技場

 総工費は1569億円。国産材をふんだんに用いたエコでシンプルな外観・・これはこれで満足ですが、経費が高すぎるということでオクラ入りとなった当初のザハ・ハディド案も捨てがたかったと少々、残念な思いも。

  ザハ・ハディド案

 何せ世界を見渡せば、シドニーのオペラハウスは言うに及ばずドバイや上海など斬新なデザインのランドマークがどんどん造られている。

 日本の公共建築はどうしても経費問題が足かせになって、そういった斬新な建築物は難しいようですね・・一流の建築デザイナーは数多く居るのですが。

 ちなみに英国のザハ・ハディド事務所では、その後、中国長沙市のインターナショナル文化芸術センターでもコンペに勝利し、華麗な流線型の建築群が造られることとなりました。残念・・。

  長沙市:国際文化芸術センター

 さて、近年世界に造られたアーティスティックな巨大建築物を見ていきましょう。

 最初は、ニューヨークはマンハッタンで過去最大の再開発プロジェクトが進行中のハドソンヤード。

 10番街から12番街にかけて28エーカーという広大な敷地に今年9月時点で250億ドルをかけて整備されている新しい街で、いま最も人気の観光スポットとなっているのが、空中遊歩道「vessel」。

ハドソンヤード「Vessel」

 高さ約45メートル、蜂の巣のような形状で、2500段のらせん状の階段と80箇所の踊り場だけで形成されたこの建物は、ロンドン出身のトーマス・ヘザーウィックがデザインしました。

 下から見上げるとこんなふう。フロアの下部構造が鏡のようになっており、クラクラと眩暈がしそう。

 

 もちろん最上階からはハドソン川とマンハッタンが一望できるようになっており、眺望抜群。

 内側を見下ろすとこんなふう。

ハドソンヤード「Vessel」

 もともとこの辺りはマンハッタンのはずれでニューヨークの地下鉄駐車場があった閑静な場所。

 そこに商業施設、学校、病院など新しい街を丸ごと造ってしまう・・そのシンボルがこの「Vessel」というワケです。

 山形県の山寺で、煩悩を捨てるために登る階段が1070段ですから、その倍以上の2500段・・こりゃあ煩悩が落ちまくり(笑)

 

 次は、来年2020年2月末の開業を目指して建設が進んでいるモスクワの巨大屋内アミューズメント施設「Island of Dreams」。

Island of Dreams

 内部から見上げた天井の様子からも施設の巨大さが伝わってきますが、モスクワ市長のセルゲイ・ソビニャン氏によれば、この「Island of Dreams」は世界最大の屋内遊園地になるとのこと。

 周囲の公園まで含めた面積は30万平方メートル。そこに10のテーマエリアに29のアトラクションのほか、コンサートホール、映画館、セーリング・スクール、ホテル、レストラン、ショップを備えた複合施設が建設さてれています。

 えーと・・TDLは51万平方メートルあるので、あくまでも「屋内部分」が世界最大ということでしょうかね。

 

 わが福島県のスパリゾートハワイアンズも屋内面積が8万2千平方メートルとかなり巨大な屋内アミューズメント施設ですが、上の写真では建物面積が島の半分弱くらいに見えるので10数万平方メートルくらい?・・どうなんでしょうか。

 比較できる正確な資料が見当たらないので、よく分かりません。

 さて、ここからは、大きさよりもアーティスティックな建物景観という観点でいくつかを。最初はコレ。

ルーブル・アブダビ

 写真はUAE(アラブ首長国連邦)のサディヤット島に近年建設されたルーブル・アブダビ美術館の外観。

 これまた奇抜な柱構造を持ってきたものですが、ルーブル・アブダビの名前の通り、この美術館の建設はフランスとUAEの国家協同プロジェクト。

 ただ「ルーブル」の名前を30年間冠する対価として4億ユーロ(約530億円)をUAE側が支払う約定になっているので、フランス側は資金を受け取ってアドバイザリー提供や作品貸与を行うという立ち位置のようです。

  ルーブル・アブダビの内部

 この写真の通り、内部の展示室の天井も奇抜なデザインとなっている模様。

 次はこれ。

 ロンドンの民放テレビ局ITVビルの屋上に何やら穏やかならぬ人影が。

 実はこれ、彫刻家マーク・ディキンスの彫刻作品で84名の男性をかたどったもの。

 知らずに見上げたら、きっとビックリして腰抜かすような作品じゃないでしょうか。しかし、よりによって何でこんなものを(笑)

 さてこれは?

 いやもう・・何が起きているのか不思議すぎる光景ですが、実は中国は湖北省の省都武漢にあるホテルの屋上付近で作業をする従業員の姿。うん、アートそのもの。

 そしてこちらは台湾の高雄にあるデパートの夜景。

 これぞアーティスティック!

 きっと引いて観ればはっきりした模様をかたどっているのでしょうが、至近距離の内側からはこんなふうに見えるのでしょう。

 次は、目下、政府に対する抗議活動の喧騒に包まれている香港から夜明けの風景。

 夜明けの光に照らされて目覚め始める商業ビル・・漆黒に映える仄かな光がとても美しい写真です。

 下は同じ香港から集合住宅の写真。

 まさに壮観。いったいどれだけの人がここに住んでいることやら。

 こうした高層の集合住宅が連なる風景は、どこの都市のものでも一幅のアートに見えてきます。

  バンコクの集合住宅

  香港の集合住宅その2

  上海の集合住宅

 うわぁ、上から見ると目が眩みそう・・。

 さて、いきなり話は古代に飛びますが、エジプトの大ピラミッドは実は白かったという話です。

 我々が見ているのは数千年を経て外壁が劣化した姿で、元々は石灰岩の化粧パネルが嵌め込まれ、全面真っ白の美しい姿でした。

 しかも、ピラミッドが建設された当時は砂漠ではなく、鬱蒼としたジャングルの中だったのです。

 そうであった事は、ピラミッドの裾の部分や頂上部分に僅かに残された痕跡から推測されているのです。

 つまり、現在、我々が目にしているのは"ピラミッドの廃墟"に他なりません。

 何故、こんな話を持ってきたか?

 今回、ここまでご紹介したのは、アーティスティックに完成された、あるいは完成間近の建築物でしたが、すべてのプロジェクトがそうそう旨く行っているワケではありません。

 建設中途で資金難に陥り、途中放棄された例など、地方都市ではよく見られる話。

 しかしもっと大きな・・首都で建設された巨大摩天楼が完成を待たずにスラム化しているという"現代の廃墟"が最後のテーマとなります。

    

 それは、南米ベネズエラの首都カラカスの中心部にある45階建ての巨大摩天楼『ダビデの塔』。

ダビデの塔

 1990年にベネズエラの金融センターとして建設が始められ、建設主の名前David Brillembourgから「Torre de David」という愛称で呼ばれていたこのビルは、三年後に建設主が急死したことで運命が暗転します。

 その後の金融危機を経て国家管理となったこのダビデの塔は、結局完成されることなく、エレベータや電気・水道はもちろん、壁やバルコニーの手すりまで未完のまま放置されることになりました。

 ベネズエラと言えば、政情不安・食糧難・人道危機から国民の1割を超す400万人が国外へ難民として逃れている国。治安も最悪で犯罪発生率は東京の100倍を越すと言われています。

 そうした中、この朽ちかけたダビデの塔に貧民が勝手に住み着き、スラム化してしまったのです。

 

  ダビデの塔に住み着いた住民たち。

 エジプトのピラミッドが数千年を経て廃墟の姿になったのに対し、上の写真を見て分かる通り建設が中止された1994年から僅か20年足らずで右のような有様に。

 現代文明の何と脆いことか・・。

 

 現在では3000人を超す住民が不法に住み着いており、犯罪とドラッグの温床、世界最高層のスラムと化してしまいました。

 

 

 しかし、驚くべきは、そこに住む住民たちのたくましい生命力。

 勝手に電気を引いたり照明を付けたりで、夜になればこのとおり。

ダビデの塔(夜景)

 人間、やればできるんですね。

 なお、本家ダビデの塔はエルサレム旧市街の西端、ヤッフォ門の南隣にある古代城塞の一部で、現在は歴史博物館になっています。

  ダビデの塔(エルサレム)

 うん。たたずまいが似ている気がしないでもない。

 《配信:2019.12.19》

葉羽葉羽 右の背景画像は、フランス南部のモンペリエで日本人建築家藤本壮介らが手がけた集合住宅「The White Tree」。なお、画像提供はAFPほかです。

 

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