新年に初めて聞いたコンサートは、矢崎彦太郎指揮新交響楽団の演奏会だった。
新交響楽団は昨年初めて聞いた(4月19日ミューザ川崎/坂入健四郎指揮/ショスタコーヴィチ交響曲第4番他)が、音大オーケストラを除けば、アマチュア・オーケストラのトップのひとつではないかと思ったが、その考えは今回確信に変わった。
曲目は新交響楽団のチェロ奏者でもある坂田晃一の管弦楽のための「詩篇」と20分の休憩後のマーラーの交響曲第3番。前半の「詩篇」は20分ほどの曲。重々しく始まったがジャズっぽいイディオムが現れたところで私は興味を失って聞き流した。演奏時間が100分を超えるマーラー交響曲第3番の前には不要だと思うが、やはりこういうナラシ演奏が必要なのかな。
後半のマーラーの交響曲3番の予習としてバーンスタイン指揮ウィーン・フィルの1972年4月収録のライブ映像を見ていたが、「こんなに金管の独奏が多い曲はアマチュア・オーケストラとしては最も避けるべき曲だろうに」と不安視していた。
ところが冒頭のホルン8本の吹奏を聞いて、この危惧は吹っ飛んだ。いやあホルン、トランペット、トロンボーンのソロが素晴らしい出来だった。豊富な練習量だけではこうはならない。もともとのテクニックが優れこれに楽曲理解が加わらないとこうはならないだろう。
ただし第3楽章のポストホルン(舞台裏からの演奏で終演後に舞台に登場)に関してはちょっとミスが多く不満があった。ポストホルンは相当難しい楽器なのだろう。
金管奏者だけでなく楽員たちのプロ並みのテクニックやアンサンブル力に加えて、実に深い「マーラー愛」を楽員から感じたことも書いておきたい。この共感力はプロ・オーケストラをはるかに凌駕するのではないか。

指揮者の矢崎彦太郎(1947年2月7日生まれ78歳)の解釈や楽員をリードする姿にもやはりこの「マーラー愛」を感じた。フランス在住でフランス音楽に強い指揮者というイメージが付きまとうが、そんなことはない。昨年はフィルハーモニック・ソサィエティというアマチュア・オーケストラでサンサーンスの交響曲第3番、「マ・メール・ロア」、「火の鳥」を聞いたが、その時はフランス的な味わいに感心したものだ。
今回はマーラーだが、何の不満もないばかりか説得力のある演奏だった。この曲は「敬虔で純粋な宗教的な感情」「ユーモア」「不幸・災厄に立ち向かう決然とした不断の勇気」などが求められるが、何かそうしたものに矢崎の音楽的特性がフィットしているのではないかという気がする。
78歳、指揮者としては絶頂期なのではないか。決してポストに恵まれているとは言えないが、あまり欲がないのではないかな。

新交響楽団の今回の演奏会は楽団創立70周年記念演奏会だった。平均年齢はアマチュア・オーケストラとしてはかなり高い(50歳代)。しかしそれが好結果につながっているようだ。
それにしても凄い人気で会場の東京芸術劇場はほぼ満員。SS席4000円、S席3000円、A席2000円、B席1500円という値段設定は、アマチュア・オーケストラとしては破格だ。
アマチュア・オーケストラに詳しい方によると、ある水準以上のチケット収入だとアマチュア・オーケストラでもJASRAC(日本著作権協会)への支払いが生じると聞いたことがある。まあこの新交響楽団はスーパー・アマチュア・オーケストラと呼んでいい存在なのではないか。
私はこの演奏会に行くのを決めたのが遅くてB席しか残っていなかった。東京芸術劇場3階のセンターエリアではあるが最後列。3階で聞くのは初めてでそれも最後列で心配したが、音響は悪くなかった。ちょっと遠い感じなのだが、最強音はそれでもかなりの迫力があり、池田香織のアルト独唱(素晴らしかった!)も冥界からの歌声みたいに聞こえて楽しめた。これも発見だった。
終演後の早過ぎる拍手はなんとかならないものか。こんな感動的な終結の余韻をいつまでも味わいたいとは思わないのだろうか。こういう蛮行には耳を塞ぐしかない。
ともかく新年第1回目のコンサートはなかなか聞きごたえがあった。