5月23日の日経平均株価は1万6000円目前の1万5942円を付けた後、前日比1143円急落し、その後も一進二退状態が続き、現在は1万3000円前後で調整局面に入っている。
約半年間続いたアベノミクス相場もついに終わったという声が多いが、調整局面を経て再上昇するという少数意見もないではない。
(※右の背景画像:「アベノミクス」)⇒
株高と同時進行した円安もやはり円高に転換し、1ドルは一時96円台までつけ、1ユーロも128円までつけたが、株安ほどには円高にふれてはいない。
昨年12月26日に安倍内閣が誕生し、やはり新任の黒田東彦・日銀総裁との二人三脚で、異次元の金融緩和策により、この半年間株高・円安が同時進行して来たが、アベノミクス効果と称して、この間日経平均株価は約60%値上がりし、5年5ヵ月ぶりに1万5,000円台を回復し、円も、対ドル、対ユーロ、対元ともに約30%も円安になった。
株高は、富裕層のラグジュアリー・ブランドを始めとした高額消費を後押しし、特に百貨店の売り上げを下支えした。株高はファッション業界にとっては明るいニュースだが、同時進行して来た円安については、マイナス面が大きい。
もちろん、円安で日本の基幹産業である自動車・電機などの輸出産業が潤って、それがファッション・アパレル消費に回って来るというメリットは無視できない。またニット機械の島精機や紡績機械の村田機械はいずれも世界最大手メーカーだが、輸出比率も高く円安は追い風だ。
しかし、輸入品の浸透率が90%を超す日本のアパレル市場においては、円安による輸入価格の高騰というデメリットはあまりにも大きく、業界に深刻な影を落としている。
たとえば、日本国内でのアパレル販売が6200億円(小売価格)ある「ユニクロ」は
その約90%を中国から輸入しており、その支払いは円ベースで30%増えるはずだが、「ユニクロ」を手掛けるファーストリテイリングではドルでヘッジしており、1年ほどは影響は軽微だという。
中国企業への支払いをドルで行っているわけで、かなりのドル預金があるのだろう。さすがにグローバル企業である。当然、円安による値上げもないという。
インポーター最大手の三喜商事は「今春夏物は円安の影響はなく小売価格は前年維持。今秋冬物は前年比12~13%の円安で約7%の値上げ。来春夏物は検討中だが30%の円安で10~15%程度の値上げはやむなしと考えている」。
コロネットでは、「今秋冬ものについては、為替予約をすでにしており、まだ輸入元の協力も得て、年初の展示会で提示した小売価格をキープする方針だ。しかし、来春夏ものについては、30%の円安を考えると値上げに踏み切らざるを得ない。もちろん、為替の値上げ分をそのままということはなく、前年比で10%程度の値上げになると思う」。
今後の為替見通しについては、「年内に最悪1ユーロ140円程度を予想している。まだ危険な水準だとは思っていないが、かなり急激に進んだ円安なので警戒は怠らない。とにかく、為替水準が安定してくれることが我々のビジネスでは最も望ましい」。
三崎商事は「来春夏物が問題だが市況を考えれば10%以下におさめないと買い控えが出る」。いずれのインポーターも自ら為替予約を行うから対応には苦慮している。
ラグジュアリー・ブランドでは、すでに「ルイ・ヴィトン」が2月15日からレザーグッズ、アクセサリーを中心に平均12%の値上げ、「ティファニー」では4月15日から平均10%、さらに7月2日から平均10%の値上げを正式発表した。世界的な価格構造の見直しが理由だ。
両ブランドの日本現地法人は為替予約の必要性はなく、世界的な価格バランスを維持するのが目的。といってもかりに値上げしなくとも、日本で買ったらやすいからとショッピング客が押し寄せるわけでもないだろうが。
ファッション・ブランドではほとんどが6月に店頭に並ぶプレ・フォール商品から値上げを行なっているが、今春夏からフライング気味に値上げしているブランドもある。
また「一気に上げないで段階的に上げて値上げをなるべく気付かせない」「バッグでは、レザーものを減らして、雑材ものを増やすなどして、価格が上がっているような印象を消費者に与えない」など苦肉の策を弄するブランドもある。
2008年9月のリーマン・ショックを契機に4年続いた円高がアベノミクスで円安に大転換したことになるが、円高基調の4年間には、大半の海外ブランドは値下げをしなかった。
円安に転じた現在は、フライング気味に(仕入原価に円安の影響が本格的に出るのは早くても今秋冬物から)両手を上げて値上げに踏み切っているという印象だが、これについては、「原材料の恒常的な値上がりで、円高が続いてもとても値下げできる状態ではなかった。しかしこの円安ではさすがに値上げに踏み切らざるを得ない」とあるラグジュアリー・ブランド。
リーマン・ショック以降、日本のほとんどのラグジュアリー・ブランドは厳しい衰退期に入ったが、これと同時進行した円高で輸入価格が下がっても、それを小売価格の値下げには転化せずに、なんとか厳しい状況をやりくりして来たというのが実情だろう。
急激に株高と円安が同時進行した今、便乗気味に値上げに踏み切るというのを単純に批判はできないだろう。円安対応に頭を痛める日本のファッション業界だが、いよいよ来年4月1日の消費税8%(わずかに先送りの可能性はあるが)への対応も視野に入れなくてはならない時期になっている。
依然として本格回復には程遠い市況も合わせて、難局は続く。
(2013.6.28「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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