昨晩(1月24日)新国立劇場で「ラ・ボエーム」(ボヘミアンたち)の初日を聞いた。
プッチーニのオペラで一番好きなオペラを尋ねられたら、これはなんと言われようとこの「ラ・ボエーム」を挙げる。
よくもまあ、これだけ甘い名旋律が次から次に湧いて出て来るものだといつも感心する。
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第1幕 ロドルフォとミミ
撮影:寺司正彦
提供:新国立劇場
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プッチーニはチャイコフスキーに匹敵するような天才的メロディメーカーだが、この「ラ・ボエーム」では、よく聞くと3つぐらいの主要動機が変奏されていて、4幕2時間があっという間に終わってしまう。
加えてオーケストレーションの巧みさが尋常ではない。
トスカニーニ、セラフィン、カラヤン、ショルティなどのオペラの大家はもちろんのこと、あまりプッチーニとは縁のなさそうなカルロス・クライバー、バーンスタインなどの大指揮者が「ラ・ボエーム」の名録音を残しているのも首肯ける。
ただし「知性派」のイタリア人指揮者アバドはプッチーニは結局指揮しないで逝ったし、「トスカ」「マノン・レスコー」などのプッチーニ・オペラを指揮しているイタリア人指揮者ムーティも「ラ・ボエーム」は指揮しないようだ。あまりにもセンチメンタルなのが好みではないのか。
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第二幕 カルチェラタンの喧騒
(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)
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パリ・カルチェラタンを舞台にした哀歓に満ちた青春群像を描いたオペラだが、よほど酷い上演でなければ、幕切れはハンカチで目頭を押さえることになる。良い演奏ならばハンカチではなくタオルが必要になる。
今回は、とにかく主役の2人が美声の上に、歌も演技も上手い。
ロドルフォ役のマッテオ・リッピは老け顔だが30歳そこそこのまだ若いテナーで美声が頭から抜けてきて気持ち良いほど伸びる伸びる。
イタリア・ベルカントの典型的な声だ。ロドルフォはこうでなくては。
ミミ役のニーノ・マチャイゼは30歳代半ばで美人(ジョージア出身)だが、プッチーニでは、そろそろミミではなくトスカを歌おうかという貫禄が声にも容姿にも出始めていた。
この2人、アリアもいいが、二重唱も実に良くてハモリにハモるのである。
このオペラの最大の山場である第3幕のいつ果てるともない恋の二重唱には惚れ惚れした。
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第三幕 雪の中の別れ
(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)
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そしてこの主役2人に勝るとも劣らない出来だったのが、パオロ・カリニャーニ指揮東京交響楽団。
ここ数年で東響は在京のビッグ3(N響、読響、都響)に肉薄する本当に素晴らしいオケになった。
前音楽監督スダーン、現音楽監督ノットの薫陶が大きいのだろう。管と弦のハーモニーが絶妙で歌いに歌う。
準主役のマルチェロ役(マリオ・カッシ)、ムゼット役(辻井亜季穂)の二人、脇を固めるコッリーネ役(松位浩)、ショナール役(森口賢二)も良かった。
特に海外で活躍する辻井は新国立劇場デビューだったが、今後も聞いてみたい日本人ソプラノの一人だ。
粟國淳の演出(舞台パスクアーレ・グロッシ)は、この新国立劇場初演(2003年)以来のもので定評があり、今回で6回目。
第2幕で通行人が建物を動かしたり、第3幕で下手からヌッと酒場の建物が現れたりするのはどうかと思うが、ゼッフィレッリの古典的名演出を参考にしてよく考えられた演出ではある。
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第四幕 ミミの死
(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)
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プッチーニ・ファン、イタリアオペラ・ファンはもちろんのこと、オペラ初心者にも是非聞いて欲しい公演だ。
初日の昨晩は空席がちらほら見られた。
老人には終演(21時30分)が遅いし、金曜日の18時30分開演はサラリーマンにはちとキツイかもしれないが、もったいない。
(2020.1.31「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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