「windblue」 by MIDIBOX


ヴェルディのオペラ「アイーダ」第2幕の凱旋行進曲を聞くと中学校の入学式を思い出す。

 ちょっと気の利いた中学で、体育館への入場のときに、トランペットの吹奏の後、凱旋行進曲のエンドレステープがかかったのである。

 すでにクラシックのLPレコードを集め始めていた私だったが、この晴れ晴れしい行進曲が何なのかは分からなかった。

 ドイツ風の荘重な行進曲と明らかに違うまばゆい太陽が輝くような、この胸躍る行進曲は何なのだろう?オペラはモーツァルトぐらいしか聞かなかったから、それと分かるまでだいぶ時間がかかった。

ジュゼッペ・ヴェルディ

 それにしても呆気にとられるほど単純にして胸躍る音楽である。ふだんは深刻がり屋のヴェルディだが、やるときゃやるのだ。

 「アイーダ」はヴェルディ・オペラの中でも「椿姫」と並んで最もわかりやすい大人気オペラで、しかも「椿姫」みたいにしんねりむっちりしていない。

 ただし本格的な上演だと、装置に金がかかり、大人数を集めなきゃならないので、そうそう上演というわけにはいかないのが玉にキズ。だから、上演される時には何はともあれ駆けつけるべきなのである。

エジプト軍の凱旋の場面。馬は本物が2頭出演。
写真の白馬はダンディ・ルースター号

(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

 さて、現在初台の新国立劇場では開場20周年記念特別公演としてこの「アイーダ」を公演中(なんと全部で7公演)だ。

 大演出家ゼッフィレッリの代表的なプロダクションのひとつで、同劇場が世界に誇る豪華絢爛たる舞台である。

 開場(1997年10月)翌年の1998年1月以来5年ごとに公演。今回で5回目になる。私も前回(2013年)に続き2回目の観劇(4月8日)。

 第1幕と第2幕はオペラというより、オリンピックの開会式を生で見ているという感じのスペクタクルで2頭の馬まで登場する凝りよう。

 オペラっぽくなるのは第3幕と第4幕だが、それでも第4幕ではゼッフィレッリお得意の二段舞台&奈落効果が見られる。

 そしてまばゆさを抑える全幕での紗幕効果。ゼッフィレッリの舞台づくりの粋が十分堪能できる。

 かつてチャイコフスキーは「アイーダ」について、「こけおどしで表層的なグランドオペラで、生身の人間の真実がない」と批判したというが、彼にこの公演を見せたかった。そんな言葉は撤回したはずだ。

ナイル川の畔で愛を誓うエジプト軍のラダメス将軍と
女奴隷実はエチオピアの王女アイーダ

(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

 3人の主役も揃っている。エジプトにとらわれているエチオピア王女アイーダ役は韓国人のイム・セギョン。やや一本調子だが素晴らしい声の威力に圧倒される。不満があるとすれば、眉間にシワを寄せすぎることぐらい。

 エジプト王の娘でアイーダの恋敵アムネリス役はロシア人のセメンチュク。演技・歌ともに世界有数のアムネリス歌いだろう。

 エジプトの勇将ラダメス役はウズベキスタン人のマヴリャーノフ。勇将というよりアイーダとアムネリスの間に入って優柔不断な優男を持ち前の美声で好演した。

 そのほか、急遽堀内康雄の代役になったアイーダの父アムナズロ役の上江隼人は見事なカヴァーだった。エジプトの司祭長ランフィス役の妻屋秀和は何を演じても上手い。

 日本人歌手で不満だったのは、威厳のないエジプト王役のバスと舞台裏で歌う神秘感のない巫女役のソプラノだった。

 合唱とオーケストラの充実も特筆だ。

 特にパオロ・カリニャーニ指揮の東京フィルが音楽に感じきった見事な出来栄え。

国家最高機密を敵に漏らした罪で
生き埋めの刑になったラダメスとアイーダ。
地上ではアイーダの恋敵エジプト王女アムネリスが神に祈りを捧げる

(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

 実は私、スキンヘッドでトライアスロンが趣味のこの指揮者のファンである。

 2012年7月に二期会が「カヴァレリア・ルスティカーナ」と「道化師」のダブルビル公演をした時に、カリニャーニ指揮東京フィルのゲネプロをのぞいたことがある。

 有名な「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲で、オルガンの入るところで、カリニャーニは、オケをストップ。

 「オルガンの音色が違います!」。あ、カリニャーニは、ヴェルディ音楽院でピアノとオルガンを学んだのだった。

 それから5回やり直し。こりゃマズイ、険悪な雰囲気。自分で弾くんじゃないか?と思ったころやっと「OK」が出た。

 険悪どころか、東京フィルとは素晴らしい信頼関係にあることを確信させる今回の演奏だった。

 次のこの劇場の開場25周年記念(2023年)にも、この「アイーダ」は上演されるのだろうが、また観たいものである。

                

(2018.6.26「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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