<soul-16> お兄さんて呼ぶから。ね?
希和子が更におっとりした口調で語る。
「福喜さんや私達成仏組は、成仏できる時期が決まってるのよ。
暦なんかとは違う……もし今日、明日逃したらいつになるか…
下手すると来年まで又さ迷うって事もあるかもしれないわ」
「………」
怪訝な表情を崩さない明に、露子が希和子の後を引き継いで付け加える。
「福喜さんなんか、未練なんて無さそうなのに……
もう2回も成仏チャンス逃してるのよ。
だから孫のあの子がその度に呼び出されて」
「成仏……チャンス?」
どうでもいいかの様に聞き返す明。
コクッと頷いたり、神妙な面持ちで納得している幽霊一同。
しかし明は、説明もそっちのけで、希和子に向かっていきり立ちながら訴える。
「そんな事より!!坊やって言うのはやめて下さいよ!!
坊やって!!赤ん坊じゃないんだから!!
そりゃじいちゃん、ばあちゃんからしたらそうかも知れないけど、
そんなん呼ばれると!!俺のなけなしのプライドが疼くので!!」
と手をわなつかせながら、余りのやり切れなさに最後の方は天井に向かって叫ぶ。
明のいきなりの怒りっぷりに、驚いて目を丸くしている幽霊達に、何故か一人面白がって豊かに微笑む希和子。
希和子は反省の色は全く見えないながらも
「わかったわ。お兄さんて呼ぶから。ね?」
希和子の最後の「ね?」の言い方が子供をあやす口調の様で、しかめっ面で片目をギュッと閉じて斜に構え、まだ信じていない表情の明。
「金絡みじゃなかったら、ぜってー即効ー帰ってんのに」
明が面白く無さそうに愚痴ってペットボトルを一気飲みしていると、待ってましたとばかりに仙吉が問いただす。
「しっかし兄ちゃんは、何でそんなに金に困ってんだい?」
愚痴って、ムシャクシャするのをミネラルウォーターで洗い流したいとでも言うかの様に、グビグビと水を飲んでいた明は、ブッと噴き出しそうになり、ボタボタとペットボトルから大量に水をこぼし、こぼれた水がコンクリートの床に黒い染みになって落ちると、ジワリと染みて広がろうとする。
恨めしそうに仙吉を見る明。
「なんじゃいその顔は」
面白く無さそうだが、別に怒る程でもないと仙吉がこぼす。
【2008.8.16 Release】TO BE CONTINUED⇒