<PREV | NEXT>
Story&Illust by 森晶緒
“Star-Filled Sky” by 佑樹のMusic-Room
Site arranged by 葉羽

<Dream-16> ~実多果 夢~

(夢の中…)

 雪の降りしきる中、若い男女が車の雪かきをして、何かの権利書を得て喜んでいる。

 その夢の中に、美頬の意識が入り込んでいる。

 美頬の意識体は、他人の実多果の中に入り込んでいるため、まるで黒いスエットスーツを着ているかの様に首の辺りからグレイのグラデーションから真っ黒な黒い姿でほんのり発色して形を造っており、曖昧に正体をさらしている。

 美頬は意識で呟く。

「もう夢見てる……意識戻った。大丈夫だわ」

 そう安心して独り言を言うと、実多果の夢の様子に目を凝らしながら何かを探し始める。

 実多果の夢では、若い男女の内の見知らぬ男性が、両手を挙げ万歳をして喜んでいる。

 その隣りで一緒に口を押さえながら喜んでいる見知らぬ男女の内の女性。

 この男女二人の会話は美頬までは届かない。

 美頬は呟く。

「どこだろう入口……この子の入口もしかして遠い?」

 美頬が尚も辺りを探すと、断片的なシーンのつながりの後に、微かにどこかから呻き声が聞こえる。

 美頬はその声を聞き逃さずに、断片的なシーンをスルスルと通り抜けて、声の方へ細い糸を手繰る様に進んで行く。

 どんどん断片的なシーンが消えて行き、徐々に辺りが暗く、実多果の表層の意識が届かないところまで来ても、美頬はためらわず進み続ける。

 につれて、微かな呻き声は先程よりも小さく、しかしはっきりと聞こえる。

「暗い…あっちか」

 美頬は呻き声を頼りに、迷わず更に深い暗がりにどんどん向かう。

 遂に、もう何も周りには見えない真っ暗な実多果の意識の中へ美頬が踏み入ると、暗がりの中、前方に小さくぼんやりとした灯の塊が見える。

「居た!あそこか……」

 美頬が意識をそちらへ滑り込ませると、呻き声は小さいがはっきりと聞き取れる。

「う……ううう………うう」

 小さく呻きながら微かに発光していたのは、薄ぼんやりとした、黒髪のストレートの長髪の少女で、顔を手で覆いうずくまって丸まって、泣いて嗚咽している姿が浮かび上がる。

「うっううう………ううっ」

 すすり泣いて居るその少女の隣りまでスルッと忍びより、その丸まっている肩に手を置いて、意識の中で呟く美頬。

「この子……ここが入口なんだ。しかし閉じ切ってる……」

 美頬は少女の頭上から囁きかける。

「ねぇ………どうしたの?」

 そして自分もしゃがむと、優しく少女を包む様に、置いて居た肩の手をそのまま少女の肩にまわして問い掛ける。

「何がそんなに悲しいの?何を泣いてんの?」

 少女が顔を手で覆いすすり泣いたまま、何か声を出す。

 美頬はそれを聞き当てて激しく驚く。

「え!?」

【2020.5.9 Release】TO BE CONTINUED⇒

 

 

PAGE TOP


  banner  Copyright(C) Akio&Habane. All Rights Reserved.