岸波通信その83「神の眼」

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岸波通信その83
「神の眼」

1 驚異のツールバー

2 スーパー・サーチエンジンの秘密

3 ネットワーク・アレルギー

4 万人が「神の眼」を手にする

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  Super digital archive 【2018.3.25改稿】(当初配信:2003.9.7)

権限が無いなら、その権限を与えようじゃないかということで、連邦議会で急遽法案づくりが進められ、その日のうちに上下両院で法案を通過。ところが…」
  
・・・本文より

 この《Web版》岸波通信を始めて間もなく2ヶ月半。それ以前のインターネットは、もっぱらメールの送受信ホームページの閲覧に使うものでした。

 ところがホームページ作成作業の中で、必要に迫られ、あるいは、より快適なWebの利用を研究するうち、否応無しにいろいろな技術やソフトウェアと巡り合うこととなりました。

最近愛用しているbiglobeメッセンジャー

 デスクトップ上に配置し、世界中のユーザとチャットができる。

 中央のレーダー上には、プロフィールを公開しているユーザがアイコンで表示され、クリックするとユーザのプロフィール、関心事、コメントなどが表示され、趣味・目的の合う相手にチャットを申し込むことができる。

 会話の履歴を保存したり、相手が設置しているホームページに直リンクでアクセスすることも可能で、相手のオンライン状態、離席中、取り込み中などを常時表示することも可能。

 そうして出会った技術の中には、何度か痛い目にあったハッキングへの対処法、便利なツール、PCのパフォーマンスを向上させるやり方など様々なものがありますが、つい最近、驚くべき技術と遭遇しました。

 そこで、今回の通信では、もともとの得意分野の一つ・・・書いていそうで書いていなかったITをテーマに、最近巡りあったWebの驚くべき技術についてご紹介したいと思います。

 なお、巻末には、最近利用しているWebの便利ツールについてまとめましたので、皆様の参考になれば幸いです。

 

1 驚異のツールバー

 ネットをサーフしていたら、いつも訪れているサイトの一つに驚異のツールバーの話が載っていたので、早速試してみた。

 その名は「Alexaツールバー」。

 このツールバーは、検索エンジンとしてもスグレモノで、キーワードを入力した後、「何を用いて検索するか」をすぐ隣のボックスからプルダウンできる。

 私がお気に入りのGoogleはデフォルトの選択肢にある。

 そのほか、「辞書で調べる」、「amazon.comで出版物から調べる」、「最新ニュースから調べる」、「過去のキャッシュから調べる(!)」等々、目的に合った検索が一手間でできるようになっている。うむ、これは便利だ。

 しかし、このツールバーの真価は、まだまだ先にあった。

 検索エンジンの隣の窓「info」をクリックすると、今見ているサイトの基本情報が突然現れる。

 その内容を見て驚いた。

 作成者(組織)名、その住所、電話番号、メール・アドレス、設置月日、アクセス数の推移グラフ、リンクされているサイト数、何と、サイトに関する世界のネット・ウォッチャーの評価まで、信じられないデータが表示される。

 では実際どんな具合かということで、「福島県のホームページ」に適用してみた。

 まず、県のホームページを開いて、Alexaツールバーの「info」をクリックすると・・・。

Alexaで見た福島県のホームページ画像

福島県 pref.fukushima.jp
県の公式サイト。

Traffic Rank for fukushima.jp: 11,926
See Traffic Details(←ここから詳細グラフへジャンプ)

 このように、ページのキャッシュと製作者名、ドメイン名、サイトの説明、アクセス・ランキングのレベルと推移グラフへのリンクが表示される。

 次に、そのリンクを開くと・・・

Site Stats for fukushima.jp;

Traffic Rank for fukushima.jp: 11,926

 このような過去半年のアクセス・ランキングのグラフが表示される。

 このグラフの縦軸は上の方が小さい数字になっていることからもわかるように、「アクセス数」ではなくて、アクセスの多い方から何番目のサイトであるかという順位である。

 ちなみに、これを書いている現在、9月5日の20時50分では、福島県が11,926位。首相官邸にジャンプして調べてみると官邸のページは6,581位であった。

 この順位は、世界の全てのサイト、日本語のサイト、日本国内のサイト、というふうに任意のカテゴリーでランキングすることができる。本日の世界ナンバーワン・サイトを調べると、米国のYahoo Financeが一位になっている。

 また、当日の順位、一週間平均順位、三ヶ月平均順位、三ヶ月トレンドなどが数値表示されており、驚くべきことに、このドメインを訪れたユーザが、次にどのページに移動したのかということまで分析されている。

 さらに、「People who visit this page also visit」というデータもある。

 これは文字通り、そのサイトを訪れたユーザが、ほかにどういうサイトも見ているかというデータで、Site infoにカーソルを乗せると、その関連サイトに関する情報まで表示された。

 では、本日、福島県のホームページを訪れたユーザが、どんなサイトを見ていたかというと…。

People who visit this page also visit: (※ランキング上位順)

福島市 www.city.fukushima.fukushima.jp - Site info■

会津若松市 www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp - Site info■

いわき市 city.iwaki.fukushima.jp - Site info■

猪苗代町移動ページ www.masamunet.or.jp/inawashiro - Site info■

大越町 www.ogoe-town.net - Site info■

会津本郷町 www.mwnet.or.jp/~a-hongou - Site info■

安達町 www.e-sense.ne.jp/adachi - Site info■

須賀川市 www.city.sukagawa.fukushima.jp - Site info■

郡山市 www.city.koriyama.fukushima.jp - Site info■

河東町 town.kawahigashi.fukushima.jp - Site info■

 福島市、会津若松市、いわき市と来て、次が猪苗代町・・・少し以外な気もする。やはり野口英世の効果なのか?

 以上、紹介したほかにも、サイトに張られているリンク先の一覧、表示スピードの評価、過去一ヶ月で百万人あたり何人がアクセスし一人平均何ページ見ているかという解析などもあり、そうしたデータを他のサイトと相対比較する機能まで付いている。

 また、このサイトを訪れたユーザが、最近amazon.comでどのような書籍を購入しているかというデータもある。

 まさに驚くべきことである。しかも、これらのデータの参照は全て無料なのである。

 いったいどのような魔法を駆使すれば、こうした分析が可能になるのか?

Alexaのバナー


 

2 スーパー・サーチエンジンの秘密

 このツールバーを提供しているAlexaという米国企業は、全世界のWebページを2ヶ月ごとにキャッシュするとともに、Alexaのツールバーを利用する全顧客のアクセス・ログを取得し、その行動記録を解析して提供しているのだ。

 全世界のWebページ・・・もちろんその中には、アクセス拒否をしているサイトもあるだろうが、何百テラバイトにものぼるとてつもないデータ量だ。

 この大事業を構想し、実行に移したのはAlexaの創業者であるブルースター・カールという人物だ。

Kahle Family Web Site

←左はAlexaの創業者ブルースター・カールが開設している家族のホームページに掲示してある写真。

 Googleでブルースター・カールを検索すると上位に出てくる。

 世界中が、彼の私生活に興味を持っている様子がうかがわれる。

 ブルースター・カールは、1995年にAlexaとインターネット・アーカイブというNPO法人を同時に設立し、Alexaが収集する情報を非営利法人であるインターネット・アーカイブに提供し、このインターネット・アーカイブにおいて、人類のインターネットの歴史を記録・保存し、後世に残そうとしている。

 そもそも何故こうした壮大な構想が生まれたかと言えば、彼が世界最初の全文検索エンジンである「アルタビスタ」を視察に行った際、「コカコーラの自販機ほどのスペースがあれば、全世界のWebサイトをキャッシュできる」と言われたことにショックを受けたからだという。

daddy(その視察が行われたのは1995年。当時の世界のWebは3000万ページ程度だった。)

 さらに驚くべきことは、このAlexaとインターネット・アーカイブの膨大なデータ処理に携わる人間は、両機関共通でたった20人なのである。

daddy(こうした省力化が実現できるのは、スーパー・コンピュータではなく普通のパソコンを繋げて並列処理し、その工程のほとんどを自動化しているためだ。)

 Alexaの検索機能は、現在のWebのみを対象としない。

 ツールバーからAlexaのサイトにジャンプすれば、彼らが2ヶ月ごとにキャッシュしている過去のページ・ストックまで時系列を追って検索できるのである。

 まさにこれは、膨大なWebの歴史を俯瞰できる巨大なデジタル・タイムトラベル・アーカイブではないか。

 世界中の誰しもが、その手元のパソコンから「神の眼」を手にすることができるようになったのである。

Monthly Joke

A young boy had just gotten his driving permit.
He asked his father, who was a minister, if they could discuss the use of the car.
His father took him to his study and said to him, "I'll make a deal with you. You bring up your grades, study your bible a little, get your hair cut and we'll talk about it."

After a month the boy again asked his father if they could
discuss the use of the car.
They again went to the father's study where his father said, "Son, I've been real proud of you. You have brought up your grades, you've studied your bible diligently, but you didn't get your hair cut!"

The young man waited a moment and replied, "You know Dad, I've been thinking about that. You know, Samson had long hair, Moses had long hair, Noah had long hair, and even Jesus had long hair...."

To which his father replied....
"Yes, and they WALKED everywhere they went!"

←ブルースター・カール
家族ホームページに掲載されている
Monthly Jokeの今月分。

(※これ、面白いですか?)


 

3 ネットワーク・アレルギー

 こうしたブルースター・カールの活躍を見てくると、日本では何故、このようなネットワークに関する革新的な技術が生まれにくいのかということについて、思い当たることがある。

 思い起こされるのは、住民基本台帳ネットワークの導入に際して、一部有識者やマスコミなどが張ったヒステリックなまでの反対論陣だ。

 「完璧でないものは導入すべきでない」とする主張に対し、政府が粘り強く説明していたその足元で、システム・トラブルや磁気テープの盗難事件が起こり、反対論者は「それ見たことか」と勝ち誇ったようなコメントを発していた。

daddy(磁気テープ盗難は、本来、住民基本台帳ネットワークがなくても起こり得るトラブルのはずだが。)

 この国はもしかすると、ネットワーク・アレルギーという重い心のトラウマを負ってしまったのかもしれない。

 もちろん、冷静に安全性を検証することの重要性を否定するものではない。

 しかし、オール・オア・ナッシングの議論は、国民のネットワークに対する不安を過剰に煽り立てるだけではないのか。

 残念なことに、この世界に完璧なシステムなどはどこにも存在しない。それは、国家の体制や社会システムについても同様だ。

 重要なことは、一つの方法論を「完璧でない」という理由で否定し葬り去るのではなく、現在、手にしてる方法論との冷静な比較考量を行うことだろう。

 情報セキュリティについて言えば、紙に書いた情報をヒモで綴って棚に並べておく方法が、本当に最善で完璧なものなのか、真剣に議論されなければならない。

 我々は、変化する状況の中で、数ある選択肢の中から最もよい方法を選ぶべきなのである。

 

4 万人が「神の眼」を手にする

 では、Alexaが収集する個人情報はどのように管理されているのか?

 Alexaが収集する個人のアクセス・ログは、統計的データに加工された後、個々の収集情報は破棄される。

 なおかつ、得られた統計情報を非営利法人インターネット・アーカイブに寄贈することで、一営利企業が個人情報を独占する危険性を回避している。

 このインターネット・アーカイブでは、検索したいサイトのURLと時点を入れると、Webサイトの過去のキャッシュを見ることができる「Wayback Mathine」をネットで公開している。使ってみると非常に便利な機能である。

NPO法人インターネット・アーカイブが
無料提供している
Wayback Machineのサイト

 では、貴方がこのシステムに不安を感じるのならどうすればよいのか?

 答えは簡単である。利用しなければいいのだ。その点は、国の制度として国民を縛る住民基本台帳ネットワークとは大きく異なる。

 統計処理され公開される目的でアクセス・ログを収集されることに同意した者だけが利用契約を結べばいいのである。

 また、Alexaが提供する情報は、こうした統計データばかりでなく電話番号など個人(企業)の基本情報も含まれる。

 そういう情報はどこから入手しているのか?

 それもまた、Alexaツールバーの利用者が趣旨に賛同し、自ら申告した情報なのである。決してAlexaがスパイ・ウェアを走らせ、一方的に盗み見ている訳ではないのだ。

 私も、この「岸波通信」について適用してみたが、もちろん個人情報に関する部分は「no deta」と表示された。

 また、トラフィックについても「no deta」。つまり、外部からのリンクを張っていないサイトは「アクセス拒否」と見なしてキャッシュされることはない。

 利用したくない人は利用しないという選択の自由・・・それは、貴方もすでに享受しているはずだ。

 例えば銀行のオンライン・キャッシュカード。

 「住所、氏名、性別、生年月日」くらいしか扱わない住民基本台帳ネットワークに声高に反対しながら、一方では、大切な「預金に関する情報」を銀行のネットワークに委ねているのではないか?

 さらに言うなら、貴方の「身体・病歴に関する情報」も病院のネットワークに委ねているのではないか?

 そうしたシステムに対し、「意義あり」の声があがらないこの国とはいったい何なのだろう?

「alexaツールバー」のダウンロードサイト

 ブルースター・カールの試算によれば、米国議会図書館の全データ(20テラバイト)さえも、約8万ドルで保存できるそうだ。

 この地球上の全ての音楽や文学や映像も、それを万人が共有し、人類共通の遺産とすることはもはや遠い将来の夢ではなくなった。

 万人が「神の眼」を持てる社会がやってきたのだ。

 そうした技術にどう対処すべきなのか、それはオール・オア・ナッシングではない。

 安全に運用ができるように試行錯誤しながら育てて行けばいいのである。民主主義がそうであったように。

 

/// end of the “その83「神の眼」” ///

 

《追伸》

 もう一つ、「神の耳」と呼ばれるシステムがあります。

 それは、米国NSAなどが共同運用する「エシュロン・システム」。

 こちらは、有線通信、無線通信、衛星通信、果ては携帯電話を用いた個人通信まで、地球上の全ての音声通信を盗聴し、「テロ」、「爆破」などのキーワードを捕捉して通信者を特定し、今度はその「危険人物」を追跡して通話記録を保存するシステム、と言われています。

 しかしこれは軍事用。決して一般に公開されることはありませんし、NSAも公式にはその存在を認めていません。

daddy(ハリウッド映画「アメリカの敵」は、そうしたエシュロンの怖さがテーマになっていました。イラクの大量破壊兵器隠匿情報やフセインの息子達…ウダイ、クサイらの移動情報を捉えたのもこのエシュロンと言われますが、果たしてどうなのか?)

 でも、この巨大盗聴システムは、昨今の暗号通信技術の発達によって「使えない技術」になりつつあるようです。

 もしかして、イラクの大量破壊兵器が未だに見つからないのも暗号を破れなかったエシュロンの限界だったのでしょうか?

 今となっては、「全ては藪ブッシュの中」ですね。

 お後がよろしいようで。


 では、また次の通信で・・・See you again !

biglobeメッセンジャー

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To be continued⇒“84”coming soon!

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【岸波通信その83「神の眼」】2018.3.25改稿

 

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