岸波通信その28「会津リングシティ構想 1」

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岸波通信その28
「会津リングシティ構想 1」

1 空洞化は止められるのか

2 クライスト・チャーチの都市計画

3 リングシティ

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  Aizu Ring City 1 【2018.4.30改稿】(当初配信:2003.9.23)

「ならばいっそ中心市街地の空洞化をチャンスと捉えられないのか
  ・・・会津リングシティ構想

 競争原理を推し進めた小泉改革は、かつて“一億総中流”と言われた我が国の中産階級を分化させ、大きな所得格差をもたらしました。

 また、三位一体改革では、税源の豊かな大都市圏とそれ以外の地方との間に財政格差をもたらしました。

 地方経済では景気回復の実感もなく、若年者の流出による人口減少の加速、山間地域の過疎化・高齢化、伝統産業の不振など問題は山積です。

 そうした中で、地方都市の中心市街地の空洞化には、ますます拍車がかかっています。

シャッター通り

シャッター通り

(とある地方都市駅前)

 ここ福島市の街中に目を向けますと、駅前の旧さくら野百貨店が撤退したビルが放置されたままになっているのをはじめ、空きビル、空き店舗がいたるところで目に付きます。

 子供の頃に楽しみだったデパートの賑わいも今は無く、昔懐かしい限りです。

 さて、「中心市街地の空洞化」~この難問を何とか解決できないものか?

 ということで、今回の通信は、その抜本的な解決策に関する一つの提案です。

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1 空洞化は止められるのか

 人口減少社会が進行する中で、地方中小都市の疲弊はますます進んでいるようです。

 中心街区に休業店舗・空き店舗が連なるシャッター通りも、程度の違いはあれ、どこかしこの地方都市でも見られるようになりました。

 こうした中心市街地の空洞化対策として、これまで行政は様々な取り組みを進めてきました。

 例えば、市街地再開発、大規模地下駐車場の整備、パークアンドライド、TMO(街づくり株式会社)、アーケードの共同改修、歩いて暮らせる街づくり等々・・。

 しかしながら、その結果、かつての街中の賑わいを取り戻せた成功例は極めて少ないと言ってもいいでしょう。

地下駐車場

地下駐車場

 では何故、世に数ある「中心市街地活性化対策」が成功を収められないのか?

 理由は簡単です。

 モータリゼーションの進展によって、住民の商品購買パターンが変わってしまったからです。

 人口50万人以上の大都市は別ですが、多くの地方中小都市において、購買活動のほとんどは郊外のスーパーや大規模専門店、コンビニ、レストランやラーメン屋で事足りてしまうでしょう。

 わざわざ中心市街地の渋滞に車を乗り入れなくとも、直接駐車場に乗り入れができる品揃えの多い身近な場所で十分に用が足りるのですから、中心部のデパートや小売店が寂れるのは当たり前と言えば当たり前なのです。

郊外型ショッピングセンター

郊外型ショッピングセンター

 にも関わらず、まるで砂漠に水を撒くように、政治や行政は中心市街地活性化のために税金を投入し続けています。

 もちろん、何代も前から中心市街地に店舗を構えている商店主やデパートのオーナーにとっては由々しき問題でしょう。

 だからと言って、“時計の針”が簡単に戻せるとは思えません。

 ならばいっそのこと、“中心市街地の空洞化”をチャンスと考えることはできないでしょうか。

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2 クライスト・チャーチの都市計画

 ニュージーランドにクライスト・チャーチという人口が約35万人の地方都市があります。

 地方都市とはいえ、クライスト・チャーチはニュージーランド南島では最大の都市。

 “イングランド以外で最もイングランド的な街”と呼ばれ、ゴシック様式の重厚な建築物と緑豊かな公園地帯がちりばめられています。

クライストチャーチの位置

(左)クライストチャーチの位置

(右)市中心部にある大聖堂

 何故“イングランド的”なのかと言いますと、もともと1850年に移住したイギリスからの移民によって築かれた都市なのです。

 クライストチャーチという名前も、植民者を率いたジョン・ロバート・ゴッドリーが、オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジの出身であったことに由来します。

 市の中心部にあるクライストチャーチ大聖堂は街のシンボルとして有名で、その周辺がビジネス、商業、観光の中心地として多くの観光客、市民で賑わいを見せています。

 下に掲げたのがクライスチャーチ市の全域図で矢印の位置が、市中心部の大聖堂の場所です。

市の全域図

市の全域図

←中央が大聖堂

 クライストチャーチの市内には交通渋滞がほとんど無く、街の端から端まで車で移動しても約30分で横断できます。

 市民の足として活躍しているのは、市バス(メトロ・Metro)で、大聖堂前広場の近くにあるバス・エクスチェンジを中心に、各路線が放射線状に伸びており、各路線を環状線のようにつなぐ路線で連携されています。

 また、大聖堂周辺には、1995年に市内観光として復活された低床式のトラム(路面電車)が運行され、同じく中心部を巡回する無料シャトルバスとともに中心部の足も万全です。

 しかし、この都市の最大の特徴は、市内に600箇所以上もある豊かな公園や緑地です。

 まるで、森の中に都市があるようです。

市の全域図

中心部の公園風景

←市中心部のエイボン川

 実は、このクライスト・チャーチ、かつて「首都機能移転」論議が華やかなりし頃、福島県が新首都のコンセプトとして提唱した“森にしずむ都市”のモデルの一つでした。

【参考】 森にしずむ都市のコンセプト (福島県「新都フォーラム’97」の資料より抜粋)

●自然環境との共存
 自然の地形や植生を極力改変せず、建物は低層、コンパクトで周囲に溶け込む色彩・形態とし、省エネや省資源を徹底した小負荷型の都市

●ヒューマンスケールの生活空間
都市に暮らし、またそこに訪れる人々の活動やライフスタイルに対し、多様で主体的な選択と利便性を提供する生活者の視点に立ったコンパクトな人間サイズの都市

持続可能な成長
ゆとりある空間の中で、都市の成長をその内発的な成長や賑わいの場をも大切にしながら計画的・総合的にコントロールするとともに、省エネ省資源型の生活・都市運営システムが確立された、将来にわたり持続的な成長を可能とするサスティナブル都市

~以下省略

 そして、クライストチャーチの数多い公園の代表格が市の中心部分にあるハグレー・パークで、その大きさは約200ヘクタール、何と東京ドームが40個分もあるのです。

 これだけの大きさの緑地が都市の“ど真ん中”にある様子を、下の衛星写真で確認下さい。

市の全域図

ハグレーパーク

←市のど真ん中

 ハグレーパークの広大な敷地には、ゴルフコース、ラグビー競技場、クリケット競技場、テニスコートなどのスポーツ施設があり、週末になると多くのスポーツ競技が開催されます。

 あらためて市の全域図を眺めますと、クライストチャーチの街並みは、この巨大なハグレーパークを中心に置いた“ドーナツ型”の都市になっていることに気付きます。

 これだけ多くの緑に彩られた街・・・しかし、かつてクライスト・チャーチを悩ませた大問題がありました。

 それこそ・・・Inner City Problem、つまり中心市街地の空洞化問題でした。

 その時、彼らがこの問題に対してとったアプローチは、日本とは全く違うものだったのです。

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3 リングシティ

 クライストチャーチに形成された森の景観と中心市街地の空洞化対策は無縁ではありませんでした。

 都市のスプロール化によって市民の購買行動が郊外に移行し、中心部に空き店舗が増加すると、行政が跡地を買い上げて緑地化して行ったのです。

 つまり、時計の針を元に戻そうという発想ではなく、その流れを加速させたのです。

 そのようにして、どんどん形成されたのが市街地に点在する豊かな緑地帯であった訳です。

 これによって、中心市街地の土地利用は劇的に変化しました。

 かつて、商店街が密集していた中心市街地は緑豊かな公園へと生まれ変わり、ゆったりとした土地利用によって、高層ビル街を持たないヒューマン・スケールの街並みが形成されたのです。

市中心部の街並み

中心部の街並み

←ヒューマンスケールの街

 クライストチャーチにとって、中心市街地に隣接して大規模自然公園ハグレーパークが存在していたことは好条件でした。

 過密を解消された街並みは、ハグレーパークを中心として周囲に発展し、ドーナツ型の都市が形成されていったのです。

 むしろ、ハグレーパークこそクライストチャーチの中心と考えることはできないでしょうか。

 そう考えれば、街の中心部が繁華街で無くてはならないという旧来の固定観念を完全に逆転した発想が得られます。

クライストチャーチの市街地

郊外の街並み

 緑豊かなクライストチャーチは、毎年2月に開催される「ガーデンフェスティバル」の時期に、いっそうの花と緑に包まれます。

 また、その一環で「クライストチャーチガーデンアウォーズ」という、一般家庭の庭造りの品評を競うコンテストがあります。

 中心市街地の空きビルは、ともすればスラム化して治安悪化の温床となりますが、そうしたものを放置しないクライストチャーチでは非常に治安がいいのです。

 個人の住宅を高い塀や壁で家を囲うこともなく、庭と公道は花壇で仕切られただけのところも多いので、こうした一般家庭の庭を通行人が眺めることができるわけです。

クライストチャーチ国際空港

クライストチャーチ国際空港

←花と緑がいっぱい。

 さて、ドーナツ型の都市計画・・・この考え方をもう一歩推し進めると“リングシティ(環状都市)”という発想が得られます・・。

 福島県の“森にしずむ都市”は山間地の阿武隈地域を対象に構想されました。

 阿武隈地域は山間地域なので、平野にあるクライスト・チャーチからは、“ガーデン・シティ”の部分のみを応用したようです。

 そして、もう一つ参考にしたと思われるのが、ベルリンの都市再生事業です。

 その特徴は、賃貸住宅機能を併設した消費・交流複合施設の整備、土地利用計画の1/2に水と緑を配置すること、市民の通勤時間を30分以内にする職・住機能配置等です。

 とどのつまりは、コンパクトに完結する都市機能をクラスター型に配置するというコンセプトと言えます。

 しかし、山あいの阿武隈地域では、そのクラスター間の移動手段は、もっぱら車に頼るしかありません。

 ならば、そのクラスターを環状に連続して配置し、環境にやさしい軌道系交通機関で結べばどうでしょう。

環状線??

環状線

 クライストチャーチのように、中央部に大規模緑地、その周囲に環状の都市機能、さらに都市機能間を容易に移動できる環状線を配置するのです。

 もちろん、新たに大規模な鉄道を敷設したり、既存の過密な中心市街地全体を大規模緑地に変えるなどといったことは荒唐無稽な話です。

 阿武隈地域のようなアップダウンの大きな地域では、さらに不可能です。

 しかし・・・

 その理想都市のスタイルを、奇跡的に、ほぼ完成形に近い形で備えている都市があるとしたら?

 そのことに、今は誰も・・・そこに住んでいる人々さえ、気づいていないだけなのです。

 

///end of the “その28「会津リングシティ構想1」” ///

 

《追伸》

 今回の内容は、メルマガ版の旧・岸波通信「会津リングシティ構想~NZに学ぶ未来の都市計画」を全面改訂したものです。

(※通信ナンバーは旧ナンバーをそのまま活用しました。)

 タイトルに「会津」とありますので、後編を見るまでも無く、会津地方が日本版リング・シティの候補であることはお分かりでしょう。

 しかし、問題は、“なぜ会津なのか?”という一点に尽きます。

 それはまさに偶然の産物と言えるのですが、リングシティの諸条件をありのままで満たしている地域は、広い日本と言えど会津しかないのです。

 後編で述べる“三つの地図”を重ねてみると、そこに意外な事実が見えてくることでしょう。

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

クライストチャーチのトラム

クライストチャーチのトラム

←市内を周遊できる路面電車

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To be continued⇒“29”coming soon!

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