岸波通信その120「35年目の謝罪」

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岸波通信その120
「35年目の謝罪」

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  One apology of the 35th year 【2018.1.22改稿】(当初配信:2005.4.17)

「私は、諸君が生徒の時は、まだ三十代の血気盛んな頃だった。
 今にして思うと、君達の気持ちを考えずに、行き過ぎた指導をしたことも多々あったと思う。
 どうか、至らなかった私を許してほしい。」

  
・・・本文より

 写真家大和伸一は、僕の小学校以来の同級生だ。

 記憶は定かでないが、MIZO画伯も朱雀RSも小学校一年生の同じクラスだったというのだから長い付き合いといえるのかもしれない。

 それにも関わらず、伸一や朱雀とはそれほど親しい付き合いではなかった。

 おそらく、ギターを弾いたり詩を書いたりしていた~どちらかと言えば“軟派”の僕や画伯と彼らとは、棲む世界が違ったのだろう。

 何と言っても、伸一と朱雀の二人は同級生の中でも抜きん出てスポーツの才能があったのだから・・・。

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一)

 中学時代の彼は、とてもヤンチャなヤツだった。

 何か面白そうなことがあると、真っ先に首を突っ込んで来て、いつしか先頭に立っていた。

 そして、やることに度が過ぎて真っ先に叱られるのもやはり彼・・・要するに“悪ガキ”であったのだ。

 聞くところによれば、そんな伸一に“人生でどうしても許せない人間”がいるらしい。

 それは他でもない中学校時代の恩師だというのだから、事は穏やかでない。

 いったい二人に何があったのか?

 彼のクラスで、ある日、大事件が持ち上がったらしい。

 同級生の持ち物が、教室から忽然と行方不明になった・・・どうやら、誰かがいたずらをして、隠したか盗んだらしいのだ。

 しかし、そこは狭い教室内の世界、生徒から話を聞いた担任のE教師は烈火の如く怒りをあらわにした。

 早速、教室に生徒全員が集められ、尋問が始まった。

 真っ先に、悪ガキである伸一にE教師の疑いがかかった・・・しかし、彼は全くの潔白であった。

 誰も犯行を名乗り出る者は現れず、“集会”の後で、伸一は一人だけ職員室に呼び出された。

 そして、E教師は、彼に向かってこう言った・・・

「なあ、大和。絶対誰にもナイショにしてやるから、オレにだけ本当の事を言ってくれ。」

 ・・・完全に犯人と決め付けられている。

 伸一は、悔しさを通り越して涙が出そうになった・・・。

 伸一は、ヤンチャもするが正義感が強く、決して悪事を働く人間ではない。

 そして、反面では、とてもナイーブで他人に優しいところがある。

 朱雀RSも、学生時代を通して親友だった伸一の支えがなければ、度重なるアンラッキー・ストーリーに押しつぶされていたかもしれない・・・。

 E教師の心無い言動は、傷つきやすい伸一の心に大きな傷を残した。

「E、許すまじ!」・・・以来、E教師は、伸一の“人生の宿敵”になったのである。

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一)

 2005年1月2日、人生の宿敵が再びあいまみえる時がきた。

 中学校卒業以来、何十年ぶりかの同級会である。

 クラスの違う僕は、懐かしい仲間達と再会したくて、二次会から合流すべく会場外で待機していた。

 予定の時刻を過ぎても散会の気配が無いので、会場の同級生に電話を入れてみた。

 かなり盛り上がって、時間延長して騒いでいるらしい。

 伸一は、この日仕事があって、かなり遅れて会場にやって来たということだ。

 そして、電話を入れた同級生が言うには、E教師が会の冒頭で、意外な挨拶をしたと言う。

「私は、諸君が生徒の時は、まだ三十代の血気盛んな頃だった。
 今にして思うと、君達の気持ちを考えずに、行き過ぎた指導をしたことも多々あったと思う。
 どうか、至らなかった私を許してほしい。」

 ~血を吐くような、重い謝罪の言葉だ。

 その一つに、あの“事件”が含まれるかどうかは定かではない。

 だが、誰の心にもその事件はよみがえった。

 そしてその場に・・・伸一は間に合わなかった。

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一)

 僕は、一次会が引けた同級生たちと合流した。

 伸一もその中にいた。

「しばらくだな、伸一。」 

「やあ。」

 ~相変わらず、そっけない挨拶である。

 遅れて参加した彼に、同級会での様子を聞くと・・・

「会の中で、E教師が何回も握手を求めてきたけど無視してやったぞ、あはははは!」

 伸一は、E教師の慙愧に満ちた“35年目の謝罪”を聞いていない。

 僕は彼に、E教師の挨拶のことを話して聞かせた。

 とたんに伸一の表情が曇る。

 いや、むしろ泣き出しそうな表情だ。

 人間、若気の至りで過ちを犯すことは多々ある。

 それは、人生を重ねてきた現在の伸一なら十分理解しているはずだ。

 彼を深い後悔がおそったようだ。

 本当は、あの言葉に何十年も心を縛られ続けてきた彼自身こそ、E教師の過ちを最も許してやりたいと考えていた人間だったのだ。

 なにせ、写真を愛し、故郷の風景を愛し、道端の何気ない野草にさえ優しさを見つけ出す彼なのだから・・・。

 伸一、自分をそんなに責めるな。

 また、いつか巡りあえることもあるだろう。

 今度は、飛びっ切りの握手をしてやればいいじゃないか。

写真展「君の物語を‥」

(写真:大和伸一)

 人生流転・・・

 時は巡って、また新しい春が来る。

 

/// end of the “その120「35年目の謝罪」” ///

 

《追伸》

 6月1日から、福島市松木町の「ギャラリー宙」で開催される大和伸一写真展“君の物語を・・”を「岸波通信」本編の方からも応援するために、大和伸一にまつわるエピソードを一つご紹介しました。

 この後も、いくつか彼に関する話を掲載する予定です。

 というのも、連作リレーポエム『君の物語を・・』は、彼自身の人生の実話に基づいて製作したものなので、もうちょっと詳しい背景などをご紹介して、大和伸一の人となりを理解してもらいたいと思ったからです。

 写真展の正式なご案内は、いずれギャラリーのオーナーであるMIZO画伯の方から、サイト「ギャラリー宙」のインフォメーションで紹介されると思いますので、皆様のご来場をお待ちしています。

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

大和伸一写真展

(コラッセふくしま)

←会場風景。

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To be continued⇒“121”coming soon!

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