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「COOL!」(TAM Music Factory)
by 岸波(葉羽)【配信2018.7.30】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 凶器は知性×動機は愛×殺人を証明せよ

 前回に引き続き、2018年上半期の鑑賞作品について簡単にご紹介するシリーズ。

 今回のご紹介作品は「ラプラスの魔女」。

ラプラスの魔女

(C)2018 映画「ラプラスの魔女」製作委員会

 魔法でも使わない限り不可能な完全犯罪。果たしてその殺人を証明することができるのか?

 では早速参りましょう。

 

◆『ラプラスの魔女』
  福島イオンシネマ:5月4日(金)鑑賞

 原作である東野圭吾「ラプラスの魔女」は2015年に作家デビュー30周年記念として単行本が刊行されたベストセラー。

「ラプラスの魔女」東野圭吾

 それを初共演の櫻井翔、広瀬すず、福士蒼汰の売れっ子若手トリオで映画化したサスペンス・ミステリーです。

ラプラスの魔女

(C)2018 映画「ラプラスの魔女」製作委員会

 映像プロデューサーの水城義郎が、妻と訪れた赤熊温泉で硫化水素のガス中毒で死亡するという事件が発生。

 捜査を担当する中岡刑事(玉木宏)は、保険金目当ての妻による殺人を疑い、地球科学の専門家青江教授(櫻井翔)に意見を求めますが、開放された野外で硫化水素を用いた殺人は不可能という返答が。

 しかし、亡くなった水城義郎の知人男性が同じ硫化水素中毒で死亡するという事件が発生。中岡刑事(玉木宏)は、二つの事件の点と線を追い始めます。

 中岡刑事(玉木宏)

 一方の青江教授(櫻井翔)も、二つ目の事件の現場検証を担当。仮にこれらが事故ではなく計画殺人ならば、犯人は自然現象を完璧に予測しなければならず、不可能と断定しますが、そんな中、謎の少女羽原円華(広瀬すず)が現れ、これから起きる自然現象を言い当てるという不思議な現象を目の当たりにします。

 円華(広瀬すず)は、事件に関連があるという甘粕謙人(福士蒼汰)を探しているので協力して欲しいというのですが、その謙人は、かつて自殺した姉の巻き添えで植物人間となり、脳の再生手術を受けたと言う…。

 原作がベストセラーという事もあり、しかも主演級の三人(櫻井・広瀬・福士)がいずれも僕ら夫婦がヒイキにしているメンバーであったため、矢も楯もたまらず観に行ったのですが…う~ん…。

 羽原円華(広瀬すず)

 タイトルになっている「ラプラスの魔女」は、18世紀のフランスの数学者ピエール=シモン・ラプラスがその著書「ラプラス確率論」で述べている考え方。

『もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力を有する知性が存在するとすれば、この知性にとっては不確実なことは何もなくなり、その目には未来も過去同様に全て見えているであろう』というもの。

 この予測を可能にする知性を指して「ラプラスの悪魔」と呼ぶのですが、作品では「魔女」と言い換えているわけです。

 もしこんな予測が現実の人間にできるとしたら、それは既に”超能力”と言って差し支えないでしょう。

 で、こうした超能力をミステリーに持ち込んでしまったら「何でもアリ」ということになるワケで、それじゃいくら何でも…というのが僕の考え。

 どうやらそういう進行らしいと気が付いた時点で、謎解きへの興味は急速に失われてしまいました。

ラプラスの魔女

(C)2018 映画「ラプラスの魔女」製作委員会

 さらにもう一つ。櫻井翔クン扮する青江教授は、ガリレオの福山雅治のようなキャラを期待していたのですけれど、全くもってそうではない。

 せっかく彼を登用しているのに、ただの狂言回しの役どころで、鋭い推理も意外な発想も全くなし。事件に首を突っ込んでしまったただの科学者なのでした。

(あ~もったいない。原作がそうだからしょうがないのか?)

 青江教授(櫻井翔)

 さらに、真犯人が明らかにな後で「もっと悪い奴」が現れ、犯人がこの人物と闘う場面がクライマックスになりますが、これって既に事件はそっちのけ。

 犯人なのにヒーローのような扱いになって、登場人物の誰もがそこをスルーして突っ込まない。何なんでしょうかね、これ?

 (犯行を証明できないから無罪ってことになるんでしょうか?)

 甘粕謙人(福士蒼汰)

 東野圭吾氏の作品は、どれもこれも売れに売れるのですが、何本かに一本は精彩を欠く作品に出合うことがあり、一方の「名作」と呼ばれる作品群との落差を感じることがあります。この「ラプラスの魔女」は僕にとってそんな作品。

ラプラスの魔女

(C)2018 映画「ラプラスの魔女」製作委員会

 彼はデビュー30周年記念となるこの作品について「これまでの私の小説をぶっ壊してみたかった。そしたらこんな作品ができました」とコメントしましたが、たしかにある意味、ミステリーをぶっ壊したのかも。

 「デス・ノート」のように、超能力が織り込まれた世界観の中で起きる事件を扱うならいいですが、普通の殺人事件が起きて、それは超能力でやりました…って、(いろいろ理屈は後付けしているものの)ソレは反則ではないでしょうか(笑)

 

/// end of the “cinemaアラカルト205「ラプラスの魔女”///

 

(追伸)

岸波

 この「ラプラスの魔女」の制作が発表されてからというもの、『櫻井翔、三池監督作品で4年ぶり映画単独主演!不審死追う教授役』(スポーツ報知:2017年3月20日)であるとか、スチール写真でも櫻井翔扮する青江教授がセンターになって、いかにも名探偵が快刀乱麻のように謎を解くというプロモーションが打たれました。

 僕も原作を読んでいませんでしたから、てっきりそう受け止めましたし、世の中の多くの櫻井翔ファンも(原作を知らない限り)そのように期待したはずです。

 しかし、実際の内容は上で述べたように、単なる狂言回しの役どころで、謎は勝手に解けてゆくのです(笑)

 僕は常々、こういう実際の内容とは関係なく、主演者の人気におもねるようなプロモーション、キャッチコピーの在り方を苦々しく感じています。

 誤解を恐れず言うならば「だまし討ち」のようなもの。

 実際に観てみればバレてしまう薄っぺらな嘘でコーティングするというのはいかがなものか。

 櫻井翔君自身は、きっと脚本と演出に忠実に演じたのでしょうから罪はありませんが、そうした彼の努力さえ(結果的に)スポイルしてしまうようなやり方はまずいでしょう。

 「過度な」あるいは「的外れな」プロモーション、その罪がいかに大きいか制作者は知るべきです。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

いぬやしき(※次回紹介!)

(C)2018「いぬやしき」製作委員会 (C)奥浩哉/講談社

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト206” coming soon!

 

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