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「夜砂霧」(音楽の卵)
by 岸波(葉羽)【配信2018.1.8】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 知る覚悟はあるか――。

 35年前、リドリー・スコットが衝撃作「エイリアン」に続いて世に放ったSF映画の金字塔「ブレードランナー」(1982年)の正統なる続編「ブレードランナー2049」を公開と同時に観てまいりました。

 前作では、人類に反乱を企ててたレプリカント(人造人間)を「解任(抹殺)」する役目の"ブレードランナー"デッカード(ハリソン・フォード)が、レプリカントの一人であるレイチェルと逃走するという衝撃のラストが。

 その他、数々の謎を残したまま「伝説」となったディストピア・ストーリーの「30年後の世界」が描かれます。

ブレードランナー2049

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 製作総指揮はもちろんリドリー・スコット。監督は「メッセージ」でアカデミー賞作品賞・監督賞など8部門でノミネートされたドゥニ・ヴィルヌーヴ。

 主役の新たなブレードランナー「K」を演じるのは、「ラ・ラ・ランド」で主演男優賞にノミネートされた若手のホープ、ライアン・ゴズリング。

 さらに話題なのは、前作で主演を務めたハリソン・フォードがそのまま逃亡した"ブレードランナー"デッカードとして登場すること。

 前作公開後、「デッカードは6人目のブレードランナーだったのではないか」という大論争が巻き起こりましたが、その謎に決着が付きます。

 さて、新作の内容は??

 

 映画の冒頭、ブレードランナー「K」が飛行車に乗ってレプリカントの製造企業ウォレス社の経営する農場の一つを訪れるシーンから。

 ここにいるのは「解任(抹殺)」すべき対象のレプリカント、サッパー・モートン。

(レプリカント・サッパー)

 激しい銃撃戦を制し、サッパーを倒した「K」ですが、サッパーは今わの際、謎の言葉を残します‥‥‥「奇跡を見たことがあるか?」と。

 任務を終え帰還しようとしたした「K」は、飛行車のセンサーが庭の枯れ木の根元に埋まっている「何か」に反応しているのに気付きます。

 そこを掘り起こしてみると、出てきたのは小さな箱。中に入っていたのは「女性の遺骨」で、製造番呉があることからレプリカントのものであることが判明。

 しかしその遺骨には… 何と、妊娠できないはずのレプリカントが帝王切開した痕跡がありました。

ブレードランナー2049

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 映像を見て驚くのは圧倒的な画質。そして進化した映像が訴えるディストピアの新たな世界観。

 大気汚染は限界に達し、常に酸性雨が降り注ぐ地上は薄暗い闇に閉ざされ、そこに多国籍の人種や異文化が無秩序に混在する世界。

(ディストピアの風景)

 この「2049」は全米公開後、著名な映画批評家レビュー集積サイト「Rotten Tomatoes」において、2017年12月22日現在336件のレビューがあり、批評家支持率は87%という極めて高い評価を獲得しています。

 それにもかかわらず、日本での封切り初週末の動員ランキングでは1位をとることができず、ここ福島市でも、最も大きなシネマ・コンプレックス「イオン・シネマ」の公開ラインナップにさえ入らず、二番手の福島フォーラムのみの上映となりました。

 また、ネットの評価を見ても、総じて専門家から高い評価を得ているのに対し、若い映画ファンのコメントでは「内容がよく分からない」・「冗長である」という非情に残念な結果になっています。

 これは第一作「ブレードランナー」でも起きた現象で、「2020年、レプリカント軍団、人類に宣戦布告!」という的外れなキャッチコピーが付されたことから、単純明快なストーリーを期待した若者の失望を買い、早々に打ち切りとなった経緯があります。(売り方を間違えた…ということでしょうか。)

(前作「ブレードランナー」)

 ところが、後に名画座で再上映されると、映画マニアの圧倒的な支持を受けるところとなり、ビデオが発売・レンタルされると記録的な売り上げとなって「伝説」が誕生したのです。

 現在の「アメコミ・ヒーローもの」やド派手な演出の「トランスフォーマー」などが全盛のアメリカンSFの時代にあって、人間と同じように生まれながら「消費」されていくレプリカントの「苦悩」・「絶望」という哲学的なテーマ、高い芸術性は、若者にとって「敷居が高い」と受け止められても仕方がないと思います。

 事実、全米公開でも、観客の71%が男性で、そのうち63%が35歳以上。ワーナー・ブラザース国内配給部門の責任者であるジェフ・ゴールドスタインは「私たちの想定よりも観客層の幅が狭かった」と述懐しています。

 しかし、このリスクにいち早く気付いていた人物が居ます。

 それはリドリー・スコットから演出を要請されたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、その人です。

ブレードランナー2049

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 ドゥニ・ヴィルヌーヴは、監督を引き受けるにあたり条件を出しました。それは、前作「ブレードランナー」(2019年の世界)と「ブレードランナー2049」(前作から30年後の世界)の時代を結ぶ『三つの短編映画』を制作すること。

 「ローマは一日にしてならず」ではありませんが、この暗鬱な世界がどのようにして出来上がったのか、その「歴史」を踏まえなければ「2049」のストーリーは理解されないという問題を提起したのです。

 ということで、前作からの流れをもう一度整理してみましょう。

◆第一作「ブレードランナー」(2019年)のあらすじ

 第一作「ブレードランナー」は、フィリップ・K・ディックの名作SF「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を下敷きに、リドリー・スコットが独自の解釈を与えて組み上げたストーリーです。

 まず、原作ではロボットに近い概念であった「アンドロイド」を、人間と同じ生体組織を持った人造の複製人間「レプリカント」に変更しました。

 彼らは「ネクサス6型」という製造ナンバーで呼ばれ、環境破壊のために住めなくなった地球から移住するための宇宙開発の最前線の労働力として使役されています。

(前作「ブレードランナー」)

 ところがレプリカントに「感情」や「自意識」が芽生えると、自分たちの使命や境遇に疑問を持ち始める個体が現れ、それを防止するために「寿命4年」という改変が加えられます。

 しかしこの措置は逆効果に。人間と同じ寿命を希求する6体のアンドロイドが宇宙開発の現場で反乱を起こし、地球へ密航して、製造元のタイレル社に寿命を延ばす施術を求めようとしたのです。

 これに対し、反乱分子を解任(抹殺)するために、警察組織の中に設けられたのがブレードランナーで、デッカード(ハリソン・フォード)がその任に当たっています。

(前作「ブレードランナー」)

 デッカードはタイレル社の創業者タイレル博士やその秘書レイチェルと連携しながら討伐に当たりますが、次第に、人間と同じ肉体・精神を持ったレプリカントを抹殺する任務に疑問を持ち始めます。

 やがて秘書のレイチェルは、自分自身もレプリカントであり、人間だと思っていた記憶が植え付けられたものだという事実を知り、絶望の淵に沈みます。

 反乱レプリカントのボス、バッティとの最後の闘いにおいて、デッカードはビルから突き落とされそうになりますが、その時、自分の寿命の限界を悟ったバッティはデッカードを救い上げ、穏やかな笑みを浮かべて死んでいくのです。

 レイチェルにも同じ運命が迫っていることを感じたデッカードは任務を放棄し、彼女を連れて逃避行へと旅立ちます。

ブレードランナー

(C)WarnerBros./Photofest/MediaVastJapan


◆短編映画1「2022:ブレードランナー ブラックアウト」

 日本アニメ界の鬼才、渡辺信一郎監督による短編アニメーション。

 2020年にまでに「ネクサス6型」レプリカントのほとんどの寿命が尽きたため、タイレル社は寿命制限のない「ネクサス8型」を市場投入。

 ところが「人間至上主義」の風潮が広がって、人間によるレプリカントの虐殺が相次いだため、レプリカント・イギーらが人類に対する反乱を企てます。

(2022:ブラックアウト)

 彼らの狙いは、高高度の核爆発でEMP(電磁パルス)を引き起こし、地上のあらゆる通信インフラと電磁記録を破壊して、レプリカントに関する記録を抹消すること。

 2022年、反乱は成功し地上に大停電が発生。翌年レプリカントを製造禁止とする法律が成立してタイレル社は破産します。

◆短編映画2「2036: ネクサス・ドーン」

 ルーク・スコット監督による実写短編。

 2020年中頃から環境破壊と食糧危機が深刻化。科学者ニアンダー・ウォレスは遺伝子工学による合成食糧を開発。人類の危機を救って大富豪となります。

 ウォレスは破産したタイレル社の資産を買い取り、人類に反抗できない温厚な性格の新型「ネクサス9型」を開発。

(2036:ネクサス・ドーン)

 これを生産するため、ウォレスはレプリカント製造禁止を解除しようと議員に最新型レプリカントの試作品を提示する様子を描きます。(目の前で自殺を強要するというエグイやり方ですが。)

◆短編映画3「2048: ノーウェア・トゥ・ラン」

 「2049」本編の前年の事件を描いたルーク・スコット監督による実写短編。

 2048年、「ネクサス8型」の最後の生き残りサッパー・モートンが、凶悪な犯人から母親と娘を守るため手助けをしてしまいます。

(2048:ノーウェア・トゥ・ラン)

 これを見ていた通報者が、ブレードランナーがいる警察に「見つけた」と密告するまでが描かれます。

 …つまり「ブレードランナー2049」において、この通報を受けたブレードランナーがサッパー・モートンを追う場面に繋がっているのです。

 …と、いかがでしょうか?

 こうしたシークエンスを知らないで「2049」だけを見ても、設定に理解が及ばないのは当たり前。

 実際、「2049」を理解したコアな映画ファンや専門家は、ほとんどこの流れを頭に入れてから本編鑑賞に臨んだはず。(僕もその一人)

 この一連の映像作品は、ある意味、ブレードランナーとレプリカントを巡る「大河ドラマ」ストーリーなのです。

 知らなければ、表面的な映像の美しさや手に汗握るアクションばかりに気を取られますが、レプリカントの長いレジスタンスの歴史を理解すれば、見えるものが違ってくるはずです。

(※なおこれら3短編は、まだ公式サイトでご覧になれるようです。)⇒

ブレードランナー2049

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 さて、ストーリーに戻りますが、映画の冒頭で「レプリカントの出産」という前代未聞の事件が明らかになりました。

 これを知った者たちの反応は二つ。

 「K」の上司のジョシ警部補は事実公表による社会不安を憂慮し、「K」に事件の痕跡をすべて抹消することを命じます。

 一方、「ネクサス9型」を製造するウォレス社は「レプリカントの生殖技術」を獲得しようと「生まれた子供」を確保しようとします。

 その狙いは、レプリカントの自己増殖機能が解明できれば、製造期間や製造費用を大きく圧縮できるからです。

 (さらには、大量製造によるレプリカント軍隊の創設まで視野に入れている。)

 ウォレス社の調査により、女性の遺骨はかつてタイレル社から逃走したレイチェルのものであること、生前、デッカードと恋愛関係にあったことが判明。

 ウォレス社長は、右腕であるレプリカントのラヴにレイチェルの子供を探し出すよう命令します。

ブレードランナー2049

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 なかなか「解任(抹殺)」すべきレイチェルの子の手がかりを得られない「K」は、再びレプリカント・サッパーの農場を訪ねます。

 すると、掘り当てた木の根元から「6-10-21」数字の刻印や赤子を抱いた女性の写を発見。それが誕生日でないかとあたりを付けた「K」は、データベースでその日に生まれたレイチェルのDNAを持つ子供のデータを探索。

 該当者二名で男と女。同じ孤児院に在籍し、女児は既に病死。男子のみ生存の可能性があると…。

 しかし、探索を続ける「K」は不思議な感覚に捉われます。「6-10-21」という刻印は、彼自身がくり返し見る夢の中に出てくる「木馬」にあった刻印とうり二つのものだったからです。

 成人で生まれてくるレプリカントに幼児期の記憶があるはずはない。どうして自分にそういう記憶があるのか。その時大切にしていた木馬のおもちゃにどうして今発見した日付と同じ刻印があるのか…?

 不安はやがて恐ろしい疑念に… もしかするとレイチェルの残した子供というのは自分なのではないか?(えええ~)

ブレードランナー2049

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 この映画には魅力的な女性が数多く登場します。

 その筆頭はAIのジョイ(アナ・デ・アルマス)。彼女はウォレス社が開発したAI(人工知能)で、ホログラムによって実在の形をとることができます。

 実際、「K」がアパートに帰ってくると、まるで人間のようにそこに登場し、「K」は恋人のように彼女と暮らしているのです。

 この子が本当に可愛い。もう、ホログラムであることを忘れたいくらい♪

(AIジョイと「K」)

 そして、レプリカントが人間の感情を獲得していくように、AIジョイもプログラムを超えた恋愛感情を「K」に対して抱くようになるのです。(あらら…)

 人間と同じ感情を持つようになったアンドロイド(人型ロボット)を主人公とする話には第17回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した業田良家の「機械仕掛けの愛」があり、同じくAIが人間の感情を持った話に山田胡瓜の「AIの遺電子」がありますが、ともに名作。涙なくしては読めません。

 人間の感情を持ちながら人間ではないという悲劇…この「ブレードランナー」もそれらと同じジャンルのテーマを扱っているように感じます。

AIジョイ

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 遂には、AIジョイは愛する「K」とセックスをすることを望みます。

 そのために「K」を安酒場の娼婦のところに行かせ、自分のホログラムをピッタリと娼婦に重ねて愛の行為を行わせるのです。

 ここはね…実に感動的なんですよ。ジョイの健気さに涙が止まらないのです。決してキワモノではない、人間よりも人間的な、ピュアな愛情のシーン。

 陰謀や殺戮を平気で行う人間に対し、より純粋で人間らしい「人間でないものたち」…思えば「デビルマン」の究極のテーマもそこでした。

 レプリカントの苦悩や反抗を描くばかりでなく、AIの愛を同時に描いたところにリドリー・スコットの非凡な才能を感じました。

 そして触れなくてならないのが「K」の上司であるジョシ警部補(ロビン・ライト)とウォレスの秘書であり特攻隊長であるラヴ(シルヴィア・フークス)。

(ジョシ警部補vsラヴ)

 彼女たちは「レイチェルの子」を巡って敵味方に分かれるのですが、どちらも素晴らしく「強い」(笑)

 こうした女性像は、リドリー・スコットが「エイリアン」のリプリー(シガニー・ウィーバー)で提示してから広がったと思いますが、考え方も行動も「男より男前」(大笑い)

 その二人が決闘するシーンは、映画のアクションシーンの白眉の一つ。

 いやぁ…「強い女の子」が世の中に増殖しそうでコワイなぁ。

ブレードランナー2049

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 「K」は自分の裡に沸いた疑念を晴らすために、レイチェルの子供たちが居たという孤児院を訪ねます。しかし、既にそこは廃墟になっていました。

 施設を見て回ると、くり返し夢の中で見た納屋が。

 夢の記憶をたどって探すと、確かにそこに自分が隠した木馬のおもちゃを発見!その底には紛れもない「6-10-21」の刻印が…。

 「K」は、自分がレプリカントではなく「レイチェルの子」であった事を確信するとともに、ブレードランナーとしてのターゲットが自分自身であったことに気付き愕然とします。

 動転した「K」は、自分の記憶の真贋に決着をつけるため、高名なレプリカント用記憶作家のアナ・ステリン博士(カーラ・ジュリ)を訪ねるのでした。

(アナ・ステリン博士)

 果たしてステリン博士の答えは…?

「あなたの記憶は本物。でもそれは別人の本物の記憶をあなたに植え付けたもの」

 ええええ~ もう、ドンデンに次ぐドンデン。まさに怒涛の進行。「女子死亡・男子生存」の記録さえ、改ざんされたものだったのです。

 混乱の極みとなった「K」は自分の激情をあらわにするのでした…。

ブレードランナー2049

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 実は「レイチェルの子」は、このアナ・ステリン博士自身。「レプリカント用記憶作家」という肩書きですから、自分の身の上を秘匿したまま、レプリカントを製造するウォレス社の下請けをしているか、連携者なのでしょう。

 「レイチェルの子」を探すウォレス社にとっては、まさに「灯台下暗し」といったところ。

 彼女にはさらに秘密があり、環境や細菌に対する抵抗力が全く無いため、ずっと一人きりで人工環境の中で生活しているのです。

 室内には環境投影装置で森や水辺、さらには「お友達」まで現出させることができるのですが、これすべてホログラム。そこにたった一人、何十年も。

 (食物は植物由来の合成食が自動生成されている模様…多分)

 このホログラムは旧式なせいか、AIジョイのように感情をはぐくむことができず、いつもプログラム通りの行動をするだけ。

 これほどの「果てしない孤独」は、想像するに余りあります。

 一体自分自身は何者であるのか?

 アイデンティティが崩壊した「K」は、ジョシ警部補に「レイチェルの子は始末した」と嘘の報告を。

 その上で逃亡の意を固め、「自分自身を探す旅」に。道連れはAIジョイ一人。目指すは未だ生死が分からないデッカード。

 木馬の材質がラスベガス周辺のものとあたりを付けた「K」は、2022年ブラックアウトの核爆発で汚染され廃墟となっているラスベガスを目指す。

 果たして、デッカードと邂逅できるのか。自分はいったい何者なのか。

 はたまた、追いかけるウォレス社軍団との激闘の行方は…??

ブレードランナー2049

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 デッカード自身はやはりレプリカントだったのか?

「2012年10月、リドリー・スコットは続編の可能性について質問されたとき、『それはうわさではない。今起きていることなのだ。フォードと?まだわからない。彼は年を取りすぎたか?そうだね、彼はネクサス6型だったので、あとどれくらい生きられるかは不明だ。今の段階で言えるのはそれだけだ。』と冗談交じりに答えた。」

 ~との記事がWikipediaに掲載されています。

 しかし、小説版「ブレードランナー」」には、デッカードがレプリカントであるとの明快な記載が残っています。

 実際、「ブレードランナー」でオフ・ワールドから地球へ密航してきたレプリカントの数は「6体」とあったのに、1体は途中死亡で4体がデッカードのターゲットとして登場しましたから勘定が合いません。

 一時は「単ミス」として「2体死亡」が正解だったと広報が訂正を出しましたが、どうやらコレはリドリー・スコットの深謀遠慮であった可能性が高いと思います。

(前作「ブレードランナー」)

 その一つには、ファイナルカット版でデッカードが「ユニコーン」の夢を繰り返し見るというカットがプラスされたこと。

 原作を思い出してください。フィリップ・K・ディックの原作は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」で、それがアンドロイドの習性とされています。(ここでは「ユニコーン」に代わっていますが。)

 また、ハリソン・フォードは、デッカードがレプリカントであるというリドリー・スコットの解釈に異を唱え、終始、人間であるかのような演技をしたけれども、「最近ではスコットの解釈に同意している。」と映画パンフレットに記載されています。

 筋書きとしては「6体」のうち先に捉えた1体の記憶をデリートし、実在のデッカード刑事の記憶を埋めこんだ…という想定でしょうか。

ブレードランナー2049

(C) 2017 Alcon Entertainment, LLC All Rights Reserved.

 ともあれ「K」はデッカードと邂逅し、「レイチェルの妊娠を知ってから、その出産を友人のレプリカント・サッパー(冒頭で登場)に託し、自分は生まれる子供とは一切他人として暮らしてきた」…との告白を受けます。

 さらに、ウォレス社の追手から逃れ、レプリカント解放戦線と合流した後には、そのリーダーから「生き残ったレイチェルの子は女子」であったとの証言も。

 結局、彼自身は「レイチェル事件」とは何のかかわりもなく、ただ「偽の記憶」を埋め込まれて実物の迷彩役にされていただけの哀しい存在だったのです。

 しかし彼は、そんな自分の存在に絶望することなく、最後の最後に「人間としての行動」をとろうとします。

 そして、自らが信じる全ての行動をとり終えた時…美しくも哀しいラストが待ち受けているのでした…。

 いろいろ事情があって、記事に上げるのが遅くなってしまいましたが、「人間の条件」とは何なのか、人間とレプリカントとの境界線はどここにあるのか、深く考えさせられる重厚な作品でした。

 

/// end of the “cinemaアラカルト196「ブレードランナー2049”///

 

(追伸)

岸波

 この映画終盤にはさらなるサプライズが。何と、あのレイチェル本人がデッカードの前に登場するのです。

 (レイチェル)

 何故、どんな形で登場するのかは、映画を見てのお楽しみ…ということで(笑)

 「K」に同行するAIジョイに関して、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のインタビューにこんなくだりがありました。

「ジョイは『ピノキオ』でいえば、ジミニー・クリケット(コオロギ)の役割なんだ。彼を幸せにするために尽力する存在で、なるべくKの欲望に応えようとする。

 Kがどんどん欲求を高めていくと、ジョイもそれに応えようとして、よりリアルな女性らしくなっていくんだ。

 でも、一見リアルな関係性に見えても、最終的に彼女は単なる幻覚だっていうことに気付かされるんだ。」

 う~ん、なるほど。

 もしかすると… 内心では人間でありたいと憧れながら自分探しの旅を続けるレプリカント「K」自身も「ピノキオ」だったのかもしれません。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

AIジョイ役のアナ・デ・アルマス

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト197” coming soon!

 

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