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「Star-filled Sky」(佑樹のMusic-Room)
by 岸波(葉羽)【配信2012.6.11】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 公安が生んだ魔物 これが、本当に正義なのか?

 日曜の午後、ケイコと「外事警察 その男に騙されるな」を観て参りました。

 時間ぎりぎりに行ったのですが、ワーナーマイカル・シネマズ福島の5階駐車場は満車。ええ~!慌てて6階に駐車して駆け下りました。

 でも何でこんなに混んでるの? もしかすると先週観た「メン・イン・ブラック3」のせい?

でもアレは、ここに書く気も起きないような映画だったしなぁ…。

 目当ての「外事警察」も7割がた席が埋まっておりまして前から6列目。スクリーンを見上げながらの鑑賞となりました。

外事警察 その男に騙されるな

(C))2012「外事警察」製作委員会

 「外事警察」は麻生幾の書き下ろし小説。2009年にNHKでドラマ化され、その第2作「外事警察 CODE:ジャスミン」を映画化したのが今回公開された映画。

 実在する警視庁公安部外事課の精鋭らが国際テロ組織の陰謀に立ち向かうサスペンスです。

 主人公は外事第4課(実際の外事課は第3課までしかない)の作業班長・住本健司。

 目的のためには手段を選ばない非情な捜査を行うということで「公安の魔物」と呼ばれています。

 住本に扮するのはテレビ・シリーズと同じ渡部篤郎。その民間協力者となる社長夫人に真木よう子。さらに韓国諜報組織のスパイ役に、韓国映画「男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW」のキム・ガンウが出演。

 さて、映画のストーリーは・・・。

 

 開始早々、人っ子一人いない白昼の道路を血まみれになって歩いてくる女性。このゴーストタウンと化した大都会の道路に倒れこむと、やってきたのはハングル語の書かれたパトカー。

 むむっ、これはソウルか!? 詳細不明のまま場面転換。

 色合いを抑えたダークな画面に重厚なクラッシック調のBGM。どうやら舞台は朝鮮半島の国境線近く。

 そこで濃縮ウランらしきものを取引する男たち。受け渡しが終わるや否や“運び屋”は射殺されます。

 飛び散る血しぶき・・・。

まいったな~ケイコをとんでもない映画に連れて来ちゃった。

外事警察 その男に騙されるな

(C))2012「外事警察」製作委員会

 再び舞台変わって、日本の原発事故警戒区域。研究機関から軍事上の機密書類~原爆を着火できるレーザー装置の設計図が盗まれます。

 捜査線上に浮かんだのは、帰化韓国人で国際貿易を営む会社社長の奥田正秀。こいつが工作員の運び屋では無いのか。

 外事第4課の住本(渡部篤郎)は、奥田の妻、果織(真木よう子)に接近し、“協力者”となってくれるよう働きかける。

待てよ、この社長夫人って、冒頭の血まみれ女性のような?

 住本の脅迫まがいの執拗な説得によって、嫌々ながらも夫の不審な行動を探ることになった果織ですが、案の定、夫の秘密の隠し場所には「着火レーザー装置」の部品が。

 一方、韓国の諜報機関もウラン流出と着火装置の盗難事件をキャッチし、工作員を日本へ派遣します。

 そんな折、住本は、たまたま路上ですれ違った男に腹を刺されてしまうのでした。

 さて、住本の運命は? 日本・韓国・某国の三つ巴のスパイ合戦の行方は? 原爆は国際テロ組織の手に渡ってしまうのか? はたまた、冒頭の血まみれ女性はいったい何を・・・?

外事警察 その男に騙されるな

(C))2012「外事警察」製作委員会

 この映画、僕は非常に新鮮に感じました。

 まずは主人公のキャラクター。「公安の魔物」と呼ばれる住本は、はっきり言って善人ではありません。

 目的を達成するためには手段を選ばず、時に非常な行動も躊躇しません。

 社長夫人の果織を協力者(スパイ)にするために、理詰めではラチが開かないと見るや、彼女がかつて幼い娘を放置死する寸前まで追い込んだ過去を容赦なく突き付けます。

 たいていの「作り話」の主人公は、悪ぶっていても心の底は善人だったり、そのように装っている秘密が最後に明かされたりで、結局はヒーローであることが多いのです。

 かといって、悪漢としての活躍を痛快に描いたピカレスク小説でもありません。

 善と悪の部分を合わせ持った非常にリアリティのある主人公・・・いえ、登場人物の誰もがそういうリアリティを持っています。

 したがって、米国のヒーロー映画にありがちな、薄っぺらの勧善懲悪ストーリーには成り得ません。

外事警察 その男に騙されるな

(C))2012「外事警察」製作委員会

 また、水戸黄門のような予定調和もありません。主人公が“勝つ”かどうかも分かりません。

 敵と味方も入れ替わり、全く展開も結末も読めない進行で、ドキドキ感が凄いのです。

 そして、重厚なクラッシック調のBGMとグレーを基調にしたダークでスタイリッシュな映像表現。

 そこにはユーモアも無ければ、笑いを取るキャラクターも存在しません。

 ところが、不思議にも陰鬱とは感じませんでした。

 ストーリーも人間関係もこの上なく陰鬱なはずなのに、シーンの緊迫感や意外なストーリー展開にかき消されてしまうからです。

外事警察 その男に騙されるな

(C))2012「外事警察」製作委員会

 さらに、圧巻だったのは、主演の渡部篤郎の存在感です。

 何でしょう、このカッコよさ。

 僕はテレビをほとんど見ないので、これまでも継続的にドラマ出演などしていたのでしょうが、あまり記憶に残る役者さんではありませんでした。

 覚えているのは、テレビ・ドラマ「ケイゾク」の神経質な刑事、真山徹くらいでしょうか。

 元々彼は大変な苦労人で、高校を中退して母親のバーを手伝ったり肉体労働のバイトしながら演技者の道を志しました。

 丹波哲郎の演劇学校で学びながら、日活ロマンポルノの出演まで「修行と駆け出しで何でもやった。」と述べています。

 五木寛之原作のドラマ「青春の門」で主演を務めてメジャーとなりますが、以後、彼の演じてきたキャラクターの幅の広さは驚くほどです。

 例えば、愛欲に溺れて行く青年役(五木寛之原作「レッスン~Lesson」)、障害者の息子役(伊丹十三「静かな生活」)、無愛想な殺し屋役(岩井俊二「スワロウテイル」)、ストーカー役(ドラマ「ストーカー 逃げきれぬ愛」)などなど・・。

外事警察 その男に騙されるな

(C))2012「外事警察」製作委員会

 そうした演技派の彼ですが、この外事警察の住本は“この人しか居ない”と思えるほどのハマリ役。

 いつも眉間にしわを寄せた渋い表情が、まるで晩年のアラン・ドロンを彷彿とさせます。

 「いい歳のとり方をした」・・・そう思えるほどのカッコよさなのです。

もう一人、カッコいい男が登場、韓国の諜報員を演じるキム・ガンウ。彼はストーリーのキーマン。どんな行動がカッコいいのかは映画を観てのお楽しみ。

 この映画「外事警察」のキーワードは「怒り」なのかも知れません。

 社長夫人に協力を約束させた後、住本は部下の女性に言います。

「人間の一番強い感情はなんだか分かるか・・・それは怒りだ。人を動かすには、まず怒らせて、その怒りを操るんだ。」

 また、映画の至るところで本気で怒っている人物が登場します。

 その怒りの中で発せられた、紛れも無い人間の本音というものが、観る者の心を打つのです。

外事警察 その男に騙されるな

外事警察 その男に騙されるな

(C) 2012「外事警察」製作委員会

 映画の終盤、遂に原爆が完成するものの某国の陰謀組織は壊滅します。

 ところが、そのスイッチを押してしまうのは思わぬ人物でした。

 彼を翻意させタイマーをキャンセルをさせられるのは、この世でたった一人。

 奇跡的に出遭った二人は原爆を挟んで対峙することになります。

 最後の10分間、演技の火花はもの凄いです。

 手に汗握ること、必定!!

 

/// end of the “cinemaアラカルト139「外事警察 その男に騙されるな」”///

 

(追伸)

岸波

 映画の初めの方で、原発事故の警戒区域に入っていく映像があります。

 むむっ!見たことある!

 これまで岸波通信では、写真家大和伸一氏や金澤文利氏による福島第一原発周辺地域の写真を紹介して来ましたので、それかな?

※大和伸一Web写真展「Lost World」>>

※金澤文利特別寄稿「悲歌~Elegy~」>>

 まあ、津波で壊滅した風景なら宮城県や岩手県でも撮影できるのですが・・。

 でも・・・・・・似てるっ!

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again ! 

外事警察 その男に騙されるな

(C))2012「外事警察」製作委員会

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト140” coming soon!

 

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