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「Blue Island」(TAM Music Factory)
by 岸波(葉羽)【配信2011.5.15】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 標高3,190m 気温-25℃
 命は、命でしか救えない。

 小栗旬君の「岳-ガク-」をケイコと二人で観てまいりました。

 前回のcinemaアラカルト「SP 革命篇」をアップしたのが、あの3月11日。

 午前0時にアップして、翌日午後が東日本大震災でした…。

岳-ガク-

(C)2011 「岳 -ガク-」製作委員会 (C)2005 石塚真一/小学館

 それ以来、プライベートで様々な不運に見舞われまして、現在は、家族で唯一無事だった僕が足を怪我して不自由な状況になっています。

 でも、自分も病み上がりながら父の介護に頑張っているケイコを少しでも気分転換させようと、痛い足を引きずりながら出かけていった次第です。

 しかし、この映画…運命的なものを感じました。

 というのもつい先日、“葉羽のコーヒーブレイク”に「雲海を見た日」をアップしていたからです。

 自分と家族を襲った様々な不運から立ち上がるためには、“まず気持ちから”と考えまして、一生懸命、今まで楽しかったことを数えてみました。

 そしてフイに…かつて見た驚くほど美しい雲海を思い出し、「雲海を見た日」を書いたのです。

 一方「岳」の方は、今、ケイコを連れて行くならどの映画がいいだろう・・・「そうだ、ケイコの好きな小栗旬君のがいい!」とチョイスしただけで、“必ず見よう”と考えていたものではありませんでした。(足が痛かったし)

 ところがっ!

 いざ、映画を見てみると、そのストーリーに感動したのはもちろん、スクリーンに幾度と無く映し出される北アルプスの美しい「雲海」に心奪われてしまったのです。

北アルプスの雲海 北アルプスの雲海

 どちらも雲海との出会い…そして、映画の余韻もさめやらないままに帰宅すると、ネットから真っ先に飛び込んできたのが、『日本のトップクライマー尾崎隆さんエベレストに死す』の訃報。

 またも山か。うむむむむ…。

 (閑話休題)

 さて、久しぶりのcinemaアラカルト、少しくらいは映画の話をしないと叱られそうなので、ここから本題に戻りましょう。

 

 「岳」は『ビッグコミック・オリジナル』に連載されている山岳救助をテーマにした連作コミック。

 作者は石塚真一で、2008年には『マンガ大賞』と『小学館漫画賞(一般向け部門)』をダブル受賞しました。

 主人公の島崎三歩は、北アルプスの山岳救助ボランティア。

 仕事柄、多くの人の死とも向き合っているのですが、彼自身は底抜けに明るいナイス・ガイ。

 遭難者にたどり着いた時にかける言葉が「よく頑張った」(仮に要救助者が死んでしまっていても)。

 救助を終えた時かける言葉は「山を嫌いにならないでね。また山に来てね!」。

 なるほど…本当の「山男」はこういうふうに考えるんだな。

 誰よりも心から山を愛している“山馬鹿”なのであります。

「岳」の主人公、島崎三歩 コミック「岳」の主人公:島崎三歩

 この島崎三歩を演じるのが、うちのケイコの大好きな小栗旬君。

旬ちゃんはやっぱり、こういうフツーの役をやるのがいいのよね~♪

フツーじゃないってのは…「クローズZERO」?「TAJOMARU」?

 確かに旬ちゃんは、三歩のような“さわやかなキャラクター”にぴったりの役者でございますネ。

 だけど三歩は、単なるネアカ・キャラではありません。彼の笑顔の奥には、他人には決して語らない重い悲しみが秘められているのです。

 そして、そのエピソードも映画の中で明かされます。

岳-ガク-

(C)2011 「岳 -ガク-」製作委員会 (C)2005 石塚真一/小学館

 映画のストーリーは、原作のストーリーからうまくチョイスして組み立てられています。

 三歩が山岳救助ボランティアを務める北アルプスに、ある日、長野県警山岳救助隊に配属されたばかりの椎名久美(長澤まさみ)がやって来る。

 男ばかりの職場に志願してきたという久美は、その理由を尋ねられると「ミニスカートの制服には飽きたからです。」とそっけなく答える。

 実は、彼女にはどうしてもこの仕事をしたい理由があるのですが、それは後から。

 久美が勤務することになった「山岳救助隊」…これって、実際の警察組織だったのですね。

 長野県警の北部警察署地域課の所属で機動隊山岳救助部隊の隊員が主要メンバーになっているとのこと。

 ほかに有名なところでは、富山県警山岳警備隊や岐阜県警山岳警備隊(県によって名前が違う)があります。

岳-ガク-

(C)2011 「岳 -ガク-」製作委員会 (C)2005 石塚真一/小学館

 さて、その久美ですが、救助活動のなかでボランティアの三歩が果敢な救助をものともせずにやっている現場に遭遇し、彼に指導を乞うことになります。

 日頃から筋トレを欠かさず、体力には自身のあった久美ですが、実際の救助の場面では悲惨な現実に直面したり、自分の非力さを思い知らされたりして懊悩するのです。

 ある時、崖から滑落した要救助者の救援に、上司の制止を振り切って単身近場から駆けつけた久美ですが、彼女の背中で要救助者は息絶えます。

岳-ガク-

 そこへ駆けつけた三歩は、その遺体をまるでモノでも扱うように崖下のふもと目掛けて投げ下ろすのです。

 これを見た久美は絶句。

「どうしてそんな乱暴なことができるのですか!今まで生きていたんですよ!」と食ってかかる。

 久美の上司、野田隊長は「家族が待っているのは一刻も早く遺体と面会することだ。お前の頑張りじゃない」と。

 ところがその両親は遺体となって帰った息子を見て逆上し、三歩に抗議する。

「息子は生きていたんだ。お前が投げ下ろしたから死んだんだ。土下座して俺に謝れ!」と。

岳-ガク-

 久美は頭蓋骨陥没で既に死んでいたことを告げようとしますが、それを制止する野田隊長。

 すると、三歩は躊躇もせずに地面に額をこすりつけ「力が足りなくてすみませんでした。」と。

 それを見ていたたまれなくなる久美。

 場面変って山のロッジ。三歩が大盛りのナポリタンを食べている。

「信じられません。どうして平気な顔で食べられるんですか。さっきあんなことがあったのに!」

「昔ね…ナポリタンのことしか考えられなかったことがある。遭難者を背負って二晩歩き続けた。その前にナポリタンを腹いっぱい食っておいてよかったなと。そうでなきゃ力が出なかったよ。」と。

 しかし、久美には理解することができませんでした。

岳-ガク-

(C)2011 「岳 -ガク-」製作委員会 (C)2005 石塚真一/小学館

 別のシーンでは、三歩と共に救った要救助者が開口一番「何やってたんだ!お前ら遅いじゃないか!」と。

 これにブチ切れる久美。

「そもそもそんなシューズで登山するなんて非常識でしょ!私たちは貴方のために命がけで助けに来たんですよ!」

「久美ちゃん、あの人は本当は淋しかったんだよ。こんなところで足を怪我してたった一人で。」と三歩。

 怒りが収まらない久美は、その場を離脱しますが、その途中、自分が足を滑らせて崖下に。

 気が付くと足が折れて動けない。通信機も壊れている。

 絶望の中で泣き喚く久美…。

 結果、三歩が彼女のライティング信号に気づいて無事病院へ収容されるのですが、久美の中には様々な想いがよぎります。

岳-ガク-

(C)2011 「岳 -ガク-」製作委員会 (C)2005 石塚真一/小学館

 実は、彼女の父親は山で命を落とした山男。

 野田隊長が新米だった頃、その隊長だった人物でした。

 その野田隊長が病院へ見舞いに来る。

「三歩さんて、どうしてあんなに底抜けで笑っていられるのでしょう?」

 そこで野田隊長から明かされる三歩の真実。

 三歩は若い頃に親友と二人で世界の高峰を登っていましたが、その親友は三歩の目の前で崖から落下して即死したのです。

 崖下に下りて変わり果てた親友の姿に号泣する三歩。

 その後、親友の遺体を背負い、千切れた右腕を抱えて、麓の村まで二昼夜歩き続けたのです。

「それって、ナポリタンの?」と久美。

「三歩の笑顔の奥には、たくさんの悲しみがあるんだよ。」と野田。

 うーん、いいエピソードです…。

岳-ガク-

(C)2011 「岳 -ガク-」製作委員会 (C)2005 石塚真一/小学館

 と、まあ、この外にもコミックでの常連、山で父親をなくしたナオタとの心温まるエピソードなどが満載。

 でも、ナンですね…この「岳」、ひとつ一つのエピソードやシナリオも立派ですが、その背景として出てくる北アルプスの雲海、感涙ものであります。

 高山に登った経験はありませんが、山男たちが、危険を承知しながら山に嵌っていくという気持ちが少しだけ分かったような気がします。

岳-ガク-

 長澤まさみちゃん演じる久美の心の成長、たった一人の家族を失って途方に暮れたナオタの成長、三歩と野田隊長の隠された友情…泣き所はいっぱいです。

 ああ今の時代、こんなストーリーが日本人に必要なんだなと感じました。

 ネアカはね、決して苦労知らずじゃないんです。

 「苦労した」と言わずに「苦労をかけたね」と言える男になるため、頑張っているのですよ、きっと。うん。

岳-ガク-

 さて、三歩の久美のわだかまりも解消し、三歩は久々のスーツ姿で緊張気味。

 山小屋のおばちゃんいわく、「今日はナオタの授業参観に行ったのよ。あの人は山では安心だけど街ではすぐに迷子になるから心配だわ」と。

 案の定、ナオタの小学校のある街で迷子になってウロウロ。

 ようやく人づてに道を聞いて小学校の校庭までたどり着く。

 参観授業がはじまり、三歩の姿が見えないため意気消沈するナオタ。

 息を切らして教室へと走り出す三歩…間に合うのか。

 その時っ!!

岳-ガク-

(C)2011 「岳 -ガク-」製作委員会 (C)2005 石塚真一/小学館

 突然の疾風に胸騒ぎを覚えて立ち止まる三歩。

 そう…この風は、北アルプスにブリザードをもたらす“魔の風”に違いない。

 その時、散歩の持っている通信機にも山岳救助隊の一斉配信が。

「北アルプスで3名がブリザードの中で孤立遭難!」

 ナオタの教室を見上げながらも、道を引き返す三歩。

 しかしその頃、救助隊本部では、さらなる危急の報せが。

「もう一組、遭難者がいます。親娘の遭難者2名!」

「違います!三組です。パーティ7名が消息不明!!」

 なんと、同時多発の多重遭難。

 山岳救助隊は、この事態に対処しきれるのか!?

 久美の命運は!? そして、その時三歩は!?

岳-ガク-

(C)2011 「岳 -ガク-」製作委員会 (C)2005 石塚真一/小学館

 最後のエピソードの行方は伏せて置きましょう。

 事態は限りなく悪化し、絶体絶命のピンチの中で、メンバーそれぞれの「人間」としての覚悟が問われます。

 はっきり言って「名作」です。

 あの素晴らしい原作をよく一本の映画にまとめ上げたものだと感心させられました。

 たった今、「goo映画」で確認しましたら、興行ランキング堂々の一位でした。

 もう一度、声を大にして皆さんに言います。

 今の日本に必要なのはこういう映画なのだと。

 

/// end of the “cinemaアラカルト126 「岳-ガク-」”///

 

(追伸)

岸波

 ご紹介したい感動シーンはほかにも満載でした。

 本編で言及できなかったのですが、“山の守護神”三歩のほかに“空の守護神”牧英紀(渡部篤郎)も重要な役どころで登場しています。

 全く金にならない遭難レスキューヘリを運営しているパイロットですが、この男も三歩に負けず劣らず熱いんですね。

 その牧を、コミックと姿かたちまでソックリに、渡部篤郎が好演しています。

 主演で無いので賞候補などにはのぼらないでしょうが、今まで見た中でもっともカッコイイ渡部篤郎でした。

 原作では、彼もまた心の中にたくさんの重荷を背負っているのですが、そんなことを微塵にも出さず、熱い心をニヒルな表情に隠して頑張っているのです。

 いいなぁ、三歩、野田、そして牧!!!

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

牧 英紀(渡部篤郎)

(C)2011 「岳 -ガク-」製作委員会 (C)2005 石塚真一/小学館

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To be continued⇒  “cinemaアラカルト127” coming soon!

 

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