<Back | Next>
「栄華の墓所」(TAM Music Factory)
by 岸波(葉羽)【配信2003.6.15】
 

◆この記事は作品のストーリーについて触れています。作品を実際に楽しむ前にストーリーを知りたくない方は閲覧をお控えください。

 こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。

 花のような微笑みと豊かな髪
 清く澄んだ黒い瞳の少女――それが踊子だった。
 いつかは“さよなら”を…
 哀しい踊子の太鼓が伊豆の山々にこだまする。

 山口百恵の第一回映画主演作品「伊豆の踊子」(1974)のキャッチコピーは、こんなに長いものでした。

伊豆の踊子(1974年)

 最初に貴方への質問です。次は誰が言った言葉でしょう?

「別れる男に、花の名を1つ教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます‥。」

 一瞬、どういう意味なのか、戸惑うかも知れませんね。

 「別れる男」…多分これは、貴女の意思に反して貴女の元を去ってゆく男性のことでしょう。つまり、あなたは「彼」にフラれたのです。

 「図らずも」そういうシチュエーションに置かれてしまったら、この「ノーベル文学賞作家」は、貴女の好きな“一つの花の名前”をさりげなく彼に教えてあげるのがいい・・と、こうアドバイスしているのです。

 

 そうすれば花は毎年、季節が巡り来るたびに咲き誇り、その花を見つけた彼は、どうしても貴女を思い出し続けなくてはならない…そう、「一生」の間!

 何と恐ろしい“女の復讐”…しかも、何と美しい復讐!

 もうお分かりでしょう。この言葉を言ったのは「伊豆の踊子」の原作者でもあるノーベル賞受賞作家川端康成です。

 道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追ってきた。

 私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり、紺飛白(こんがすり)の着物に袴をはき、学生カバンを肩にかけていた・・。 (中略)

 暗いトンネルに入ると冷たい雫がぽたぽた落ちていた。

 南伊豆への出口が前方に小さく明るんでいた・・。

   「伊豆の踊子」川端康成

 「伊豆の踊子」は、1918年秋、まだ学生であった川端康成が初めて伊豆を旅した時に、修善寺で旅芸人の一座と出会い下田港で別れるまでの8日間の体験を書いたものです。

daddy(4日間の出来事という説もあります。)

 実は、川端康成は、伊豆を訪れる前に婚約者から婚約を破棄されていまして、そのハートブレイクの彼を癒したのが、実在の踊子「薫」との出会いだったのです。

 彼は一目で踊子に心を奪われ、伊豆の宿に泊っている間中、悩ましい思いにさいなまれるようになります。

 ところがある夜明け、向こう岸の共同湯の方を見ますと、湯殿から踊子が走り出して来まして、彼の方に両手を伸ばして、真っ裸のままで何かを叫ぶのです。

伊豆の踊子(1974年)

(映画ではこんな感じに。)

 私は心に清水を感じ、ほうっと深い息を吐いてから、ことこと笑った。

 ・・・子供なんだ。

 17、8に見えた踊子は、実はまだあどけなさの残る14歳! そのことに気付くと、彼の想いは急激にしぼんでしまいます。

 踊子への想いは、ハートブレイクが美化して作り上げた幻影だったわけです。

 川端康成が宿泊した宿は、湯ケ野温泉の河津川にかかる粋な木橋の向こうにある、しっとりとした佇まいの旅館・福田家がその舞台。その露天風呂も実在します。

  福田屋旅館:踊子の間(康成の宿泊部屋)

 福田屋旅館では、川端康成が泊った部屋を「踊子の間」と名付け、庭には踊子像も建てられています。

 伊豆の踊子像 伊豆の踊子像

 ところで、何故、「cinema アラカルト」の記念すべき第一回のスタートが「伊豆の踊子」なのかと言いますと、この作品は日本映画における「不滅の記録」を持っているからです。

 それは・・・

 この作品は1933年に田中絹代主演で「恋の花咲く 伊豆の踊子」として映画化されたましたが、その後、1954年に美空ひばり、1960年に鰐淵晴子、1963年に吉永小百合、1967年に内藤洋子、そしてついに1974年・・・三浦友和と山口百恵のコンビで六度目の映画化と、20年余りのうちに五回もリメイクされた記録を持つ作品なのです。

 しかも、一見して分るように、いずれもその時代を代表する大女優・大スター。

 山口百恵主演の第六回目には、あの石川さゆりまで出演しています。

 川端康成の「雪国」の冒頭でもトンネルが登場しますが、この作品でも主人公の屈折した心象風景を象徴するかのようにトンネルが用いられました。

 (旧)天城トンネル(旧)天城トンネル

 そう…「伊豆の踊子」の舞台は「天城越え」の場所なのです。

 

/// end of the “cinemaアラカルト1「伊豆の踊子”///

 

(追伸) 2005.5.28追記

 「岸波通信 another world.」と「僕達のラーメン道」のシリーズに続き、この「cinemaアラカルト」シリーズも岸波通信からスピン・オフして新コーナーとして復刻することにしました。

 「岸波通信」の本編シリーズは、全体的に長文ですから、なかなか取り付きにくいということもあったので、“ラーメン道”同様、短編に分割・衣替えしての再スタートです。

 というのも、このところワーナー・マイカル・シネマズ福島の“夫婦50割引”制度のお陰で、家内のケイコともども映画を見まくっていますので、書きたいものもたまっていますし、以前のように週一ペースでゆったり配信していた時とは状況が変わってきたので、自分の通信の作り方を簡単アップできるように変更するという意味もあります。

 ということで、まずはcinemaアラカルトの旧作を今回のスタイルでどどーっと復刻しますので、ご覧になっていない方は、この機会に是非一度、お目通しされることをオススメします。

 

 では、次回の“cinemaアラカルト”で・・・See you again !

潮騒(1975年)

(「踊子」の翌年に作られた第2回主演作品。)

eメールはこちらへ   または habane8@ybb.ne.jp まで!
Give the author your feedback, your comments + thoughts are always greatly appreciated.

 

To be continued⇒  “cinemaアラカルト2” coming soon!

 

<Back | Next>

 

PAGE TOP


bannerCopyright(C) Habane. All Rights Reserved.