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Written by まっさん命の小柴
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まっさん命の小柴まっさん命の小柴

 前回に引き続き、さだまさし 40周年記念コンサートツアー「さだまつり」の前夜祭“ しゃべるDAY”から『妖怪かっと飛ジジイ』の後編です。

 

恐るべし!かっ飛びジジイ

 もうゴルフ、パーですよ。吉住が落ち込みましてね。

 荷物取りながら、

「さださん、残念でしたね。俺は昨日も一昨日も、さださんとゴルフができるってんで、二日続けて打ちっぱなしに行っちゃいましたよー。残念なことになりやしたねー」

「そんなにやりたかったの?・・・じゃ、これからやるか!」

「どこで?」

「予定どおり熊本へ行ってやりゃあいいじゃん。これからだとタクシーで走れば2時間か2時間半で行くから。そりゃ全部は無理だよ、ワンラウンドは無理だからさ、行けるとこまで。ハーフだけとか、そういうんでやろうよ」

やっぱココ!?

(熊本空港カントリークラブ)

「できますか」

「できるよ。だって飛行機が着いてないのゴルフ場はわかってるし、遅れたの俺たちだけじゃない。行こう!とにかくタクシーを探せ!」

「どのタクシーにしましょう?」

「速いのを探せ」

「はい、でも『速い』って書いてないんで・・・」

 マネージャーの廣田が、

「まさしさん、こんだけ荷物があるんだからワゴン車に乗りましょうよ」

「あぁ、それはいいアイデアだ、ワゴン車を探せ」

「いました、白いワゴン車が」

いました!

 私はその運転席を覗き込んだ時、ガッカリしました。

 ものすごいおじいさんが座ってるの(笑)。

「すみません、すみません」

「・・・おっ?」

「あのー、トランク開けてほしいんですけど」

「・・・ん?」

「トランク開けてほしいんですけど」

「開いとるばい。開いとるばいて。〈ゆーっくりドアを開け、自ら降りて車の後へ回り込む〉ほら、開いとろもん?・・・はよ荷物ば入れんしゃい。・・・後で閉めとって」

こんな感じ?

 もうダメと思った。ハーフなんてとんでもないと思った。

 で、とりあえず、運転手さんの後に俺が乗った。隣に吉住、それから構成作家の小沢っていうのがいて、助手席にマネージャーの廣田が座った。

 俺、座った瞬間、吉住に言いました。

「吉住、5時間」(笑)

「そんなにかかりますか?」

「かかるったってお前、着いてくれりゃいいよ。途中でもしものことがあったときは、お前、命がけだからな」(笑)

「そうすか、じゃあ、ゴルフダメですね」

「ゴルフダメなんて、お前、着きゃいいじゃねえか、ええっ?ゴルフやるったって、死んだんじゃしょうがないんだから、なっ?」

生きるか死ぬか

 そしたら運転手さんが、

〈猫背で面倒くさそうに〉・・・どこまで?」

 廣田が僕の方を振り返って、(この車でいいんですか)って合図を送るわけですよ。

 しょうがないから俺もバックミラーに写らないように、陰から廣田にサインを送るんです。(しょうがねえだろう)ってなもんですよ。

 廣田はもう何が何だかわからないもんですから、

「あっ、あのー熊本へ行っていただきたいんですけど」

〈急に大きな声で〉熊本ぉ~!!」

 運転手さんの目がキラーっと光った(笑)。

熊本城

「急ぐとーぉ?」

 廣田が遠慮がちに、

「できたら、ちょっと急いでいただけるとありがたいんですけど・・・」

「よっしゃー!」(笑)

・・・・・・ジジイ、はえーのなんの(笑)。

 高速道路に上がったらいきなり160キロ(笑)そりゃ、どんだけ怖いか。

 廣田、「両足つった」って言ってました。

 ビューと走りながら、シュッ、シュッ、シュッ、〈激しく左右に車線を変更するまね。〉 ものすごい運転なんですよ。

 いや、達者な運転するなあと思って、

「運転手さん、大丈夫ですか」って訊くと、

「両目1.5」(笑)

両目1.5

「大丈夫、無事故・無違反たい!」

 嘘つけって、いま違反してるじゃねえか(笑)。

「無事故・無検挙」と言うんですけどね。

 それにしてもあんまり若い運転をする。

 だから俺は(もしかしたら、この人はおじいさんに見えるけれども、本当はおじいさんじゃないんじゃないか)と思った。

 よくあるでしょう、悪い魔法使いに呪いをかけられて、「お前が心から愛してくれる人が現れるまではジジイでいろ」とかなんか(笑)。

 で俺、つい年齢を訊いちゃった。

「運転手さん、若い運転されますな~。失礼なことを訊くようですが、お幾つですかぁ」

「しちじゅうに!」(笑)

 72だって。ゴルフのスコアだったら最高ですけどね。

72?

 僕の親父がその頃73だったんで、父親より一つ年下。

 親父は大正9年の生まれだから(ああ、この運転手さん大正10年の生まれなんだな)って、単純に計算できるじゃないですか。

 黙っときゃいいのに、俺、また突っ込んじゃった。

「じゃ、うちの親父より一つお若いんですね、大正10年のお生まれですね」

「うんにゃ、大正5年」(笑)

 77歳、喜寿ですよ、喜寿。

 それがえーっ?160キロ~?どうしょうかと思った。

 廣田もまたバカだから、人間、気が動転すると訳のわからないこと言うんだね。

 ビュービューって走ってる最中に

「運転手さん、このクルマ、小さいわりによくスピードが出ますね」だって。

「うーん、あさって車検たい」

 おーい(笑)。

あさって車検たい!

 運転席の左後ろにカレンダーが置いてありました。

 後ろに座ってる吉住の膝頭あたり。

 じいさん、高速道路を160キロで走行中に、体をひねって後ろを向いてそのカレンダーを見ながら解説するんですよ。

「ホントはあした車検ばしたかったたいね。ばってん、ほら〈後を振り向きカレンダーを指差す〉あしたは日曜日やろ。だけん車検でけんとたいね〈前を向く〉で、ほら〈また後を向きカレンダーを指差す〉月曜も私、休みやもんね。〈前を向く〉だけん月曜は・・・〈また振り向く〉」

 前向けジジイ-!!(爆笑)ハアハア・・・・・・〈肩で息をつく〉

 そりゃ、どんだけ怖いか。あんたたちよく笑ってられるね、人の不幸を(笑)。

 じいさんは張り切ってビューって行くわけですよ。

「いやぁ、運転手さん。大正5年のお生まれには見えませんね、お若いですよ」

「うーん、ばってん〈急に後を振り返り〉歯ぁがないとー。ほれ」(笑)

 前向かんか、ジジイー!(爆笑・拍手)

 もう死ぬかと思った。

後ろを向くな!

 そうしたら、160キロのスピードで走っていた人が、八女の先、柳川のちょっと先ぐらいのなだらかなカーブにさしかかったところでヒュヒューって速度を落として、80キロ以下になったんです。

 俺はもう、運転手さんの脈を取りにいこうかなと思った(笑)。

「運転手さんどうしたんですか?」って訊いたら、

「うん、この先で計りよると」

 ちゃんと知ってるんですよ、オービスがある所(笑)。

 速かったよ~。

 12時20分に福岡空港を出た私たちのこの「妖怪かっ飛びジジイ」というあだ名を付けたじいさんの運転する車が、熊本空港カントリークラブ・クラブハウス玄関先に着いた時刻、いったい何時だと思います?

 12時20分に福岡空港を出て、熊本空港に着いた時間が午後1時20分(笑)。

 1時間で着いたのよ、1時間。

熊本空港

 で僕らを降ろしたら、もう元のおじいさんに戻ってんの(笑)

「帰り、あんまり飛ばさないで気を付けて帰ってくださいよ」

「・・・・・・おぉ?」(笑)

「気を付けて帰ってくださいよ」

「うう・・・・・・」(笑)

 帰りは5時間かかったと思いますけどね(笑)。

 ただ、その時淋しかったのは、あとちょっとで熊本空港カントリークラブに到着するっていう坂を上がっていた、その僕らの頭の上を飛行機がゆっくりと下りて行ったのであります(大拍手)。

【完】

(参考図書:自由国民社「さだのはなし」)

 

(追伸)

 次回は、『まさし版 解説「君といつまでも」編』をお届けします。

 女性の方、必読です!!

まっさん命の小柴まっさん命の小柴&さだ研【2013.1.30アップ】

 

 

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