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銀座ランチ日記⑤「らーめん三吉(さんきち)」。

 このインフレの嵐が猛威を振るう御時世に「銀座でラーメンが300円で食べられる!」と言ったら冗談にしか受け取られないだろうが、6月9日現在、本当の話である。

「どうせインスタントラーメン程度の代物だろう」と言うのなら実際に食べてほしい。場所は銀座ナイン2号館の地下1階の飲食街である。

 この銀座ナインという東西に広がる高速道路の下のビルには、なぜか格安の飲食店が軒を並べている。たぶん家賃がかなり割安なのだろうと推測する。

 住所は銀座8丁目だが、シャレて銀座ナイン(銀座に9丁目は存在しない)と名乗っている。すぐ隣は銀座ではなくすでに新橋である。最寄駅も新橋駅(徒歩3分)なのだ。土俵際の銀座なのである。

「らーめん三吉」は1975(昭和50年)の創業だという。カウンターの中の夫婦が営むカウンター9席だけの店だから、昼どきにはさすがに5、6人の行列ができる。

 300円のラーメンだけ頼む客は昼どきにはまずいない。ミニチャーハンとラーメンの650円のセットを大半は頼んでいる。

 この縮れの入った細い卵麺は自家製麺だという。そして鶏ガラと豚のゲンコツから丁寧にとったということがすぐに分かるスープに醤油のあっさり味。これはまさに正統派の「中華そば」である。

 これが330円とかではなくて300円ということを知ると本当に涙が出てくる。意地でやっているのだろうか。

 大都会の「炊き出し」みたいなものである。国民栄誉賞というのはこういう夫婦に与えてもらいたいものである。

 ラーメンも旨いが、ラーメンセットのチャーハンもまた旨い。カレーや冷やし中華もあるが、まず手抜きはしないから旨い。

 今回、「らーめん三吉」を紹介するために取材して、主人はふつうのオヤジだが、なぜか奥方が凄い美人だということに気付いた。

 まさか夕方までこの店で働いて、夜は並木通りのクラブに勤めているなんてことはないのだろうな。

 いろいろな空想を掻き立てる「らーめん三吉」だが、突っ込んで尋ねてみたいとは思わないのだ。

(2023.6.16「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

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