「windblue」 by MIDIBOX


映画「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート」が公開中だ。

(※右の背景画像)⇒

 112年の歴史と伝統を誇るニューヨークの高級ファッション専門店バーグドルフ・グッドマンの魅力を94分で紹介している。カール・ラガーフェルドやジョルジオ・アルマーニなどのファッション業界のセレブの大絶賛が延々と続く。

ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート

ニューヨーク
バーグドルフ
魔法のデパート

 その華麗なる殿堂の素晴らしさを否定するわけではないが、その「神話」はファッション業界の現在に生きる者としては、すでに失われたこの業界の黄金時代を懐かしむノスタルジックな美しい夢のように感じられる。

 伊勢丹新宿店が、このバーグドルフ・グッドマンを目標にしていたのはよく知られている。故武藤信一・前社長は事あるごとに「バーグドルフに追いつき、追い越せ」と社員に檄を飛ばしていた。

 今年3月6日にリニューアルオープンした同店も当初は、そうした目標のもとにリニューアル計画が練られていたようだ。

ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート

ニューヨーク
バーグドルフ
魔法のデパート

 しかし、引き継いだ大西洋・社長のリニューアルに関する発言を追って行くとこのバーグドルフ・グッドマンの名前はいつしか聞かれなくなっていく。

 斟酌すれば、「すでに我々はバーグドルフが目指していた旧来型のファッション百貨店の理想を超えた現代に生きるべき百貨店像の提案をすることができた」という自負に受け取れる。

 この「ファッション・ミュージアム」を基本コンセプトにした伊勢丹新宿店は、その卓越したアイデアとともに売場面積を15%削減したのにもかかわらず、リニューアルオープン以来売り上げは2ケタ増を軽くマークしている。

 この伊勢丹新宿店の品揃えもそうだが、付言すれば日本のセレクトショップのバイヤーに関する評価も近年特に高まっている。

伊勢丹新宿店

伊勢丹新宿店

 例えば、そのマイナーなブランドやデザイナーに関するほとんどマニアックな知識などは、海外のバイヤーが日本人バイヤーに問い合わせをするぐらいだと聞く。

 前出の伊勢丹の大西社長は、今回のリニューアルに関して、「海外から来日した方々が空港に着いて、先ず新宿の伊勢丹に行ってみたいとドライバーに告げるような店にしたい」と語っていた。

 これは例え話ではないだろう。日本におけるインバウンド消費(海外から来日した外国人の日本での消費)の急増を念頭に置いた発言だ。

 同店のインバウンド消費は現在総売上高の数パーセントに過ぎないが、我々の百貨店は世界最高のレベルにあり、インバウンド消費を今後かなり増やしていけるだろうという自信を垣間見ることができる。

インバウンド観光客

インバウンド観光客

 もちろん伊勢丹だけではなく、少子高齢化で今後日本人の国内消費に大きな期待がかけられない日本の小売業者がインバウンド消費にかける期待は大きい。

 9月には一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会が設立された。代表理事はJTBの田川博己・社長で、後援の5団体には日本百貨店協会の名前がある。

 設立の目的は、ショッピングを軸にした訪日観光プロモーションを通じて、より多くの訪日外国人観光客の満足向上と日本国内事業の活性化を図ることだ。

 初のプロモーションとして、同協会は12月1日から来年2月28日まで、東京・関西・福岡で「ジャパン・ショッピング・フェスティバル」を開催し、5000以上のブランド・ショップが参加して、日本でのショッピングの魅力を海外や滞在中の外国人観光客に伝えていくという。

 こうしたショッピング・プロモーションを始めるには、今はまさに絶好のタイミングだ。

小泉内閣時代

小泉内閣時代

 小泉内閣が「観光立国」をぶち上げて、年間訪日外国人1000万人を2010年までに達成する目標を掲げたのは10年前の2003年。その間、リーマン・ショック(2008年)東日本大震災(2011年)などでその数は2011年には600万人まで減少した。

 しかし今年はアベノミクス効果で円安、富士山が世界遺産登録、2020年夏季オリンピック開催決定と、フォローの風が吹きまくり、またアジア諸国のビザ発給緩和なども後押しして今年は3年遅れで1000万人の大台が確実視されている(ちなみに世界一の観光国フランスの年間外国人訪問者数は2012年に8301万人)。

 内需に期待できない日本のファッション業界にとって切り札とも思われた中国を始めとした海外進出がなかなか業績には結びつかないのが現状だ。

 そこで足元のインバウンド消費を確実にものにしたいと、免税カウンターの新設や外国人スタッフの拡充など小売業を中心に本腰を入れ始めている。

インバウンド観光客

インバウンド観光客

 果たして思惑通りに行くのかどうか。訪日外国人が土産品以外に日本でショッピングを楽しむようになるには、五輪招致の決定打になった「お・も・て・な・し」の精神に溢れたキメ細かい接客だけでは十分ではなく、やはり世界レベルの環境づくりや品揃えが必要であるのは言うまでもない。

 ゆくゆくはインバウンド消費に関しても、その取り合いで競争が激化することが予想される。今後期待されるのは尖閣問題など関係悪化で主要国では唯一今年も訪日人数が減少している中国人だが、回復の兆しも見え始めている。

 この大票田の中国人を加えて早期に訪日外国人1500万人時代が現出して、豊かなインバウンド消費に業界が潤う未来を期待したい。

                

(2013.11.29「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

PAGE TOP


banner Copyright(C) Miura Akira&Habane. All Rights Reserved.