「windblue」 by MIDIBOX


日本のファッション誌およびライフスタイル誌の現状をレポートする。

 今年5月13日にインサイト研究所を発足した小学館の嶋野智紀・女性誌編集局プロデューサー兼メディア事業室室長は、その狙いを次のように語っている。

「この15年間、雑誌の発行部数、集稿ともにダウントレンドが続いている。これにいつか歯止めがかかり底を打つのをじっと待っていてもなかなか展望が開けるとは思えない。もっとこちらから打って出てこの難局を打開していきたい」

嶋野智紀氏

嶋野智紀氏

(小学館女性誌編集局プロデューサー)

 同社の女性誌編集局は、同社の女性誌8誌、男性誌1誌の計9誌を統括している。かなりの危機感である。

 編集者を講師派遣したり、編集に付随した各種コンサルティングをとりあえずは行っていくというが、今後出版社の仕事にイノベーションを起こしたいとしている。

 講談社でも4月1日付で新雑誌研究部が作られた。

 同社では7月6日発売号を最後に「グラマラス」(2005年創刊)「グラツィア」(1995年創刊)の2誌の同時休刊を踏まえたうえで、同社の雑誌の今後の在り方を模索するという。

 今回の2誌同時休刊は、出版業界ではGショックと呼ばれたほど大きな衝撃が走っている。

Grazia(グラツィア)

Grazia(グラツィア)

「週刊現代」「フライデー」などの編集長を歴任後に第2編集局に昨年赴任した出樋一親(だすぜかずちか)・第2編集局編集局長は、「残念ながら当社の雑誌が十分な調査や研究をもとに創刊されていたとは言い難い。各雑誌のポジショニングも全社のポートフォリオを熟慮したものではなかった。また読者との頻繁な面談によってその意見を吸い上げる誌面づくりなどの面でも十分な努力がなされてはいなかった。」と謙虚に体制の不備を認めている。

 大手出版社の雑誌作りといえば、精微なマーケティングをベースにしたマーケットイン型のやや画一的なものを思い浮かべがちだが、意外に勢いに乗じた「閃き型」だったのではないか。

 考えてみれば、部数は減少一途のダウントレンドだったとは言え、広告に関しては2004~2005年あたりに日本市場でピークを迎えたといわれるラグジュアリー・ブランドを筆頭に2008年9月15日のリーマン・ショックまではそこそこの水準にあったと見て良いだろう。

 大きく様相が変わったのは、リーマン・ショック後の5年間である。

 例えば弊紙推定だが、同社の「GLAMOROUS」では、実売部数が4万~5万部、年間広告が4億~5億円という水準だったようだ。普通の出版社なら十分にやっていける水準だ。

GLAMOROUS(グラマラス)

GLAMOROUS(グラマラス)

 しかし創刊費用その他累積した赤字を今後カバーできる可能性は低いというシビアな判断がなされたのではないか。

 一般に言われている年俸の高い大手出版社だけに損益分岐点が高いためではないかということだけではなさそうだ。

 例えば同社が発売元になっている「HUGE」は編集外部委託する方式をとっているが、今後はこうした方式や抜本的には雑誌部門を別会社化するようなドラスティックな施策をも考えさせるような講談社の2誌同時廃刊だった。

 場当たり的に雑誌が創刊されて来たというのは、たしかに集稿が上げ潮だった時期特有の現象で、今後はより慎重で計画的な手順が踏まれるとは思う。

 が、少なくとも「出版する社会的な意義」を建前としてさえ持てない雑誌の創刊が今後も続くのだろうか。講談社の新雑誌研究部の健闘を陰ながら祈りたい。

HUGE(ヒュージ)

HUGE(ヒュージ)

 明るい話題としては、30代、40代向けメンズ雑誌の好調があげられる。

 実売10万部を超えたと言われる「サファリ」(日の出出版)、この1年で部数が倍増しているという37.5歳のためのコヤジライフスタイルマガジンの「オーシャンズ」(ライトハウスメディア)を筆頭にして、「サファリ」とこのゾーンでの2強を形成する「レオン」も好調。

 世代的には団塊世代のライフスタイルにマッチしたということになるが、このゾーンは好業績を続けるユナイテッドアローズを筆頭にしたセレクトショップの好調とリンクするようだ。

「ライフスタイルにおける指南役を求めているのではないか」と昨年「エンジン」編集長から転職したGQジャパン(コンデナスト・ジャパン)の鈴木正文・編集長は分析している。

 指南書として、読者から頼られる雑誌はある意味雑誌の理想的あり方だと思うが、競合の激しい女性誌に比べて、この世代はまだ雑誌の威光が衰えていないのかとも思う。

mamagirl(ママガール)

mamagirl(ママガール)

 女性誌で注目される動向は「ママガール」(エムオン・エンタテイメント)、ウェブ版「エル・ママン」、蜷川実花責任編集のムック本「ママ マリア」(光文社)などのママ雑誌である。

 ワーキングママをコンセプトにリニューアルしたが結果が出ず休刊になった前述の「Grazia」の例もあるが、このゾーンで独走を続ける「VERY」(光文社)の牙城を崩せるのかどうか。

 また、1980年代のバブル時代に青春時代を過ごしたバブル世代向けの40アップ女性を狙い9月創刊の「GOLD」(世界文化社)もやはりこのゾーンで絶好調の「STORY」(光文社)に並びかけられるか注目だ。

(※右の背景画像:「GOLD」)⇒

                

(2013.6.18「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

PAGE TOP


banner Copyright(C) Miura Akira&Habane. All Rights Reserved.