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パリコレでもミラノコレでもジャポニズムというテーマはこのところ年々増え続けているように思える。

 柔道着から発想したラップスタイル、日本の中学校の体操着のようなジャージーファッションなどを見るたびに微笑ましくなる。

    

 しかし、日本のファッション誌やセレクトショップで海外のジャポニズムがトレンドとして大きくとりあげられることはまずない。

 「日本人にジャポニズムを提案してどうするんですか?」という冷笑が聞こえてくる。

 要するに、外国人が考える日本は、日本人には興味の対象にはならないのである。

海外コレクションにおけるジャポニズム

 一方で“Made in Japan”にこだわった、あるいは“日本の確かな職人芸”を前面に出した品揃えをキャッチフレーズにする店が増えている。

 ファッションの分野でも、そうしたセレクトショップや売り場が見られるようになった。なぜ今“Japan”がそれほどプッシュされるのだろうか。

 4月にも、日本を代表するセレクトショップであるユナイテッドアローズとビームスが「日本」をテーマにした店をオープンした。

 ユナイテッドアローズの創業者で現在名誉会長の重松理(しげまつおさむ/66歳)氏は2012年に代表取締役社長のポストを現在の竹田光広氏に譲り、第一線からは退いた。

    

 もともと日本的な精神美や日本文化にも関心の高かった人物であり、そもそも社名のユナイテッドアローズは、戦国時代の武将である毛利元就が家督を3人の子供に譲る時に、1本の矢ならすぐに折れるが、3本(重松氏を含め創業者は3人)重ねれば簡単には折れないように力を合わせて事にあたれと諭した故事に由来する。

 着物や京都好きで知られており、社長を退任してからは、一段とそうした日本的なものへの関心が高まり、NPO法人「日本・着物を楽しむ会」の会員でもあり、ユナイテッドアローズも和装や京菓子「徳屋(とくや)」を扱っている。

順理庵(外観)

 今回の「順理庵」(じゅんりあん)はそうした同氏の「和好み」の集大成とも言えるものだ。外堀通りに面した銀座6丁目にある銀座能楽堂ビル1階に8坪という小規模なスペースでオープン。

 日本の伝統的な手法で織られた生地を日本の工場で縫製した洋服(小売価格30万〜40万円ほどのジャケット)が中心で反物はあるが、着物はない。また全国各地から厳選された木工品(お盆、めいめい皿など)が置かれている。

 この「順理庵」は、2018年春の完成を目指し建設が進められている京都・鷹峰の文化施設「洛遊居」(らくゆうきょ)の雰囲気を体感できる店舗としてオープンされた、鷹峰は金閣寺の北に位置し、「日本と日本人の高い精神性と美意識」が詰め込まれた施設の創造を通し、日本の一つの真正なる美の基準(The Genuine Nippon Standard)を次世代に伝承することを目指したもので、「ギャラリー兼多目的空間としての会館」「数寄屋通りの茶室能舞台」「楼閣になった書院」の全4棟からなる。

    

 日本のシティボーイたちにオシャレなユニフォームを提案してきたユナイテッドアローズの創業者の心には、このような熱い日本精神の血が流れていたのか。

 それとも長年紹介してきた欧米のファッションに倦いたが故の反動なのだろうか。

 重松氏は、もともと日本のセレクトショップの草分けであるビームスの1号店店長を務めるなどビームスの屋台骨を支えた人物だったが、常務取締役を最後に1989年ワールドの創業者である畑崎広敏氏の支援のもとユナイテッドアローズを創業した。

ビームス ジャパン

 その古巣ビームスは今年40周年を迎えたが、「日本」をテーマに、新宿3丁目の「ビームス ジャパン」を大リニューアルした。総合アドバイザーは放送作家の小山薫堂。

 地下1階から地上5階までの6フロアを「食」「銘品」「ファッション」「コラボレーション」「カルチャー」「アート」「クラフト」のカテゴリーに分けて、それぞれ「日本」をテーマにした大リニューアルが行われた。

 日本の精神性を追求したユナイテッドアローズ&重松流の「日本」表現と違って、ビームスは日本の楽しさや美味しさを前面に出している。

 例えばビームス内では初の飲食店になった地下11 階は「日本の洋食」として小山薫堂氏が顧問を務める日光金谷ホテルのレストランのエッセンスを巧みにアレンジして提案している。

    

 「新宿百年ライスカレー」やお子様ランチなら「大人様ランチ」といった具合で、ビームスらしいユーモアが如何なく発揮されている。

 そのユーモアが最も発揮されたのは1階だ。新潟県三条市の諏訪田製作所のモノ作り、サクマ製菓の「いちごみるく」グッズ、愛媛県のみかんジュース愛知県瀬戸市の中外陶園のまねき猫など日本各地の「銘品」がラインナップされて実に楽しい。

 また日本についての見識が深い、あるいは日本でモノ作りしている、日本を世界に発信する活動をしている…など「日本のスペシャリスト」約80人によるドリームチーム「ビームス ジャパン」を発信拠点として今後さまざまな分野で協業が想定されている。

順理庵(店内)

 こうした「日本」テーマは、ひとつには日本でのインバウンド需要をアテにしている。

 それ以上に日本のセレクトショップが海外に進出する際にその地のセレクトショップと差別化を図る際の非常に大きな武器(アドバンテージ)として期待されているのだ。

 ユナイテッドアローズは台湾に進出したばかりだが、ビームスは、香港、台湾などで店舗を展開中。両社とも海外展開は拡大を目指している。

 セレクトショップはどの国でも同じようなことをしているのだから、何か特色がなければ、勝負にならない。

 もちろん、安倍政権下で愛国精神が沸騰する日本人にとっても日本の真正なる美の基準や日本の楽しさや美味しさを再発見させてくれる絶好の場所になるのは言うまでもない。

                

(2016.7.17「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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