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ヨハン・シュトラウスの喜歌劇「こうもり」は1月によく上演される。大晦日を挟んだストーリーだからだろう。モーツァルトの最後のオペラ「魔笛」もなぜか1月上演が多い。メルヘンチックで新年を寿ぐという幸福な気分にさせてくるからだろうか。

 動物や自然に溢れメルヘンチックなので子供にも親しみやすいオペラとよく言われる。そうだろうか。第1幕と第2幕では善悪が逆転するし、ザラストロ率いる叡智の集団(フリーメイソンの教団がモデル)が登場し、聖と俗、エロスとロゴスが交錯するストーリーはモーツァルトのオペラでは最難解だと思うが。

鳥の着ぐるみの鳥刺しのパパゲーノを始め
メルヘンチックなオペラ「魔笛」

(撮影:寺司正彦/提供:新国立劇場)

 この「魔笛」を初台の新国立劇場で観た(1月24日)。宮本亜門が演出した昨年7月の二期会の「魔笛」があまりに面白かったので、かなりワリを食うのではないかと思ったが、きわめてオーソドックスな舞台でこれはこれで楽しめた。

 もう1998年以来、ミヒャエル・ハンぺの演出による「魔笛」は実に6回目の上演である。舞台装置をフル稼働させた上演は、複雑なストーリーをわかりやすく見せてくれる名舞台・名演出だが、さすがに耐用年数ギリギリだろう。

 全員が日本人の歌手たちはそれぞれソツのない歌唱と演技だが、外国人歌手と比べるとやはり声のサイズがひとまわり小さくて歌は巧いのだが最初のうちは物足りない。しかししばらくすると慣れてくる。終始物足りなさを感じなかったのは新国立劇場合唱団が歌う合唱のパートだった。

 この上演の最大の「事件」は大団円に起こる。メデタシ、メデタシの大合唱のあと、教団の盟主ザラストロが客席に向かって歩き出して座り込み本を取り出して読み始めるのである。

「魔笛」の大団円シーン。
メデタシ、メデタシの大合唱の後「事件」が起こる。

(撮影:寺司正彦/提供:新国立劇場)

 拍手をしようとしていた観客もその手を止めて、このザラストロの奇妙な行為に呆気にとられる。

 教団の独裁者ではなく思索家としての一面を最後に描いたのだろうが、今までクラシックな演出を続けて来た演出家(ハンぺ)が最後に仕掛けた大ワザだった。なくもがなとも思える演出だが。

 「魔笛」は観るたびに何か新しい発見のあるオペラだ。今回は教団がワーグナーの「パルジファル」を想起させたし、夜の女王に仕える3人の侍女がやはりワーグナーの女戦士ワルキューレを連想させた。たぶんこの連想は当たっているはずである。

 モーツァルトはこのドイツ語によるオペラでその後のドイツ・オペラの礎を築いたということになるだろう。ともあれ観終わって幸福な気分になる不思議なオペラではある。たしかに新年の1月に観る演目ではある。

                

(2016.2.1「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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