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 あれは、2年ほど前の話、ちょっとした騒ぎがあった。

 2006年7月末に、「LEON」「NIKITA」(主婦と生活社)の岸田一郎・編集長(役員待遇)が、9月に退社して新会社を設立すると宣言したところ、会社側は社員の引き抜きを恐れて、岸田氏を10日間の出社停止処分にして総務部付に異動。

 事実上の解任だった。

 その直後、岸田氏に話を聞いたが、「雑誌とネットを組み合わせたニュービジネスを来年3月にスタートしたい。従来の出版社では、こうしたビジネスは難しい。また私は編集長はやらずにオーナーシップを握り、社長として経営にあたりたい」とのこと。

岸田一郎氏

岸田一郎氏

 「VOGUE NIPOON」(コンデナストパブリケーションズ)、「GQ JAPAN」(コンデナストジャパン)の斎藤和弘・編集長(両社社長も兼務)と並んで、現在の雑誌業界を代表するカリスマ編集長の退社に衝撃が走っているが、岸田氏の場合、カリスマ編集長とは言っても、所詮はサラリーマンである。オーナ-として、上から何も言われずに本当にやりたいことをやってみたかったのだろう。

 LEONの創刊は2001年9月。

 雑誌の世界では、タブー視されていた中高年マーケットに向けて、ヴィトン、エルメス、ブルガリ、カルティエなどのラグジュアリー・ブランドを紹介しようという狙いだった。

 そんな高級ブランドを買う中年男は、その手の方々と相場は決まっていたのだが、普通のオヤジに買わせてみせましょうと大見得をきったのが、LEONだった。

 まずイタリアの種馬とあだ名されるパンチェッタ・ジローラモを、カバーを始めとしたイメージキャラクターに起用。

 さらに、ライター経験も豊富な岸田氏が少々ギャグがかった破天荒なキャッチコピーで商品を紹介していった。

 いわく「ちょいワルおやじ」などなど。

 主婦と生活社入社以前、岸田氏は、世界文化社で創刊男(Begin、MEN’S EX、Car EX、時計BEGIN)の異名をとっていたのだが、いずれもいまひとつ。

 心機一転、新天地で「捨て身」とも言えるギャグメッセージだったのだが、これがウケた。

LEON

LEON

 「銀座のクラブのお姉さんに入れあげるよりも、モテおやじに華麗に変身して、まわりにいるイイ女をゲットしてみませんか?」という殺し文句が、LEONの本質である。

 ラグジュアリー業界は、ちょっと下品じゃない、と当初は冷ややかな反応だったが、本音でモノを言っている雑誌の強みというのだろうか、2002年2月号の「もてるオヤジの作り方」あたりから、いつのまにかLEONのペースに。

 読者もクライアント(広告主)も巻き込まれていった。

 その一年前に上梓された岸田氏の初の単行本となる「LEONの秘密と舞台裏」の中で、同氏は「読者、クライアント、そして編集者の三者がみな幸せになる『ハッピー・トライアングルの法則』こそレオンの成功の秘訣」と書いているが、中年オヤジの下心を見透かした大胆コピ-は即購買に結び付いたのだった。

 LEONの大成功を見て、大手出版社も中高年向け男性誌を続々創刊したが、足元にも及ばなかった。

                

 

  創刊以来5年が経過して、LEONの印刷部数は約10万部、年間広告高は約30億円、LEONだけで営業利益は10億円を数え、一時は経営危機に陥っていた主婦と生活社の業績を急回復させたと言われている。

 岸田氏はその立役者だったわけだが、今回の退社騒ぎを見る限り、ハッピー・トライアングルとはいかず、編集者だけがワリを食った格好に見える。

 不況が続く雑誌業界だが、LEONは、2001年以降創刊された雑誌の中では、唯一とも言える大ヒットだったのだが、それに負けず劣らずスポットライトを浴びているのが小学館のCanCam(キャンキャン)だ。

 創刊は1981年11月だが、2001年以降の5年間で部数はほぼ倍増した。

 あまたある女性誌の中ではナンバーワンの存在だ。

Can Can

Can Can

 JJ(光文社)、ViVi(講談社)、Ray(主婦の友社)と並んで、いわゆる赤文字雑誌(もともとは女子大生がメインターゲットで表紙の誌名が赤く大きなゴチックでやたら目立つ)と呼ばれていたのだが、CanCamの独り勝ちで、その言葉も死語となりつつある。

 CanCamは、他の赤文字雑誌の読者を食うばかりか、読者層を下は中学生・高校生、上はキャリア・主婦にまで広げて、いまや国民的ファッション情報誌として君臨している。

 そんな勝ちっぷりを見て、いままでお下品とソッポを向いていたラグジュアリー・ブランドも大量に広告を打つようになっているからゲンキンなものである。

 前述のLEONでも述べたが、広告が取りたければ、まず将を射よで、ラグジュアリー・ブランドを落とせば後は、黙ってついてくるのが、この業界なのである。

 80万部という部数はそれほどの破壊力があるのだ。

 では、CanCamはなぜこんなに読まれるようになったのか?

 さまざまな理由がある。

 PS(かつてのプチセブン)→CanCam→Oggi→Domani→Precious→和楽とラインナップされる小学館の女性誌マーケティングがうまく機能して、読者がスムーズに同社がセットした「雑誌階段」を上るようになっているのが指摘されている。

 が、なによりも、CanCamが打ち出したモデル戦略の大ヒットが最大の成功要因であるのは、誰もが認めている。

 すでに出来上がったタレントを表紙などのモデルとして使うのではなく、読者と等身大に見える(あくまでも見えるだけなのはいうまでもないが)モデルを起用して読者の共感を巧みに得る戦略は、従来のモデル起用法にはなかった斬新さだった。

 しかも、クール系の山田優、フェミニン系の押切もえ(もえちゃん)、アクティヴ系の蛯原友里(エビちゃん)と三代続けた大ヒットである。

 同時に3人が役割分担で様々なテイストを表現するという豪華さだからスゴイ。

もえちゃん、エビちゃん

筆者:カリスマ彰&
もえちゃん、エビちゃん

 ひとりでも部数5割増しのところを3人同時では5年で2倍になっても不思議ではない。

 仕掛人は5年前から編集長を務める大西豊氏だ。

 前述のLOEONの岸田氏ほど表にはでないが、大西天皇と呼ばれるほど、ファッションマーケットに影響力を持っている。

 なにせCanCamに取り上げられなければブランドにあらずというぐらいなのだから。

 押切もえを前面に押し出したCanCam卒業生向けの「お姉さん系CanCam」の創刊号は2006年に発売され即完売だった。

 いつまでこの人気が続くのか、しっかり見届けたい。

                

(2008.11.27「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)



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