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秋に新しい店をオープンするなら、秋物の商品を少しでも売りたいから、遅くとも9月中にはオープンさせたいというのがそのブランドの経営者の考えだろう。しかし、今年は10月に入っても、かなりの新店がオープンして注目された。とにかく、店をオープンしておこうということらしい。

 とても、大量のリストラや店舗閉鎖に追い込まれる大手アパレルメーカーが数社ある国とは思えないような景気の良い話である。完全な跛行現象、二極化と言ってよいのだろう。

 中国経済の減速が明らかになって、欧米のブランドが日本市場を再評価している。その結果日本での広告費も増え、前述のように新店オープンなどの投資も増えている。

 一方円安が定着してインバウンド消費が急増している。もう売り上げの20~30%がインバウンド消費で占められているブランドも珍しくない。特に有力ラグジュアリー・ブランドと宝飾・時計の分野ではそうした傾向が顕著だ。

 こうした動きをうけて10月7日に日本橋にオープンしたのがタカシマヤ ウォッチメゾンだ。

 日本橋高島屋が2019年のグランドオープン予定で建て替えられるのを見越して本館6階にあった「時計・宝飾品」売り場のうち時計売り場を中央通りを挟んだ新たな賃借物件の1~2階フロアへ移動した。

高島屋が日本橋本店の向かいに10月7日にオープンした
「タカシマヤ ウォッチ メゾン」

 売り場面積で800㎡で初年度の売り上げ目標は高島屋の発表によると52億円。オープン初日の売り上げは2億7000万円と伝えられているが、上々の滑り出しだ。

 小売業界の言い伝えでは初日の売り上げの100倍が初年度の売り上げと言われているから、その100倍は270億円ということになるが、それは冗談としても、当初予定年商の52億円のクリアは確実で、「100億円の大台を目指せる」と言う業界関係者もいるぐらいだ。

 時計売り場や宝飾売り場をサテライト店として独立させて販売するというこの手法には後続が出てきそうだ。裕福な顧客を抱え信用力と商品集めに関しては、老舗の時計店を優にしのぐわけで街場の時計店にとっては迷惑千万な話ではあるが、一種の「コロンブスの卵」と言えるかもしれない。

 しかし、こういう稼ぎ頭の時計や宝飾がより大きな売り場と豊富な品揃えを持ったサテライト店として独立してしまうと、残された本店は、その穴をどうやって埋めていけばよいのかという問題も出て来そうである。

高島屋日本橋本店

 穴を埋めるべく国産のメーカーによる新市場の創出は急務だが、果たしてその糸口はどこにあるのか。見つかっているようにはとても思えないが。

 また円安基調を前提にしたインバウンド需要をアテにしたビジネスが百貨店ではかなり目につくようになっているのも気になる点だ。

 すでに「中国人の爆買いの陰り 続報」のようなコラム(プロフェッサー小島健輔の言いたい放題10月26日)も書かれている。アベノミクスの前提は異次元の金融緩和すなわち円安誘導だが、これもいつまで持続するのか。

 もうひとつの注目路面店は10月24日にオープンした「モンクレール」銀座店である。

(※右の背景画像:10月24日にオープンしたモンクレール銀座店)⇒

モンクレールのショップイメージ
(画像:MONCLARE)

 銀座2丁目の通称マロニエ通り沿いにあり、ミキモト銀座2丁目本店の隣という好立地だ。しばらく前まではファストファッションの雄「ZARA」が銀座2号店を構えていた場所だ。

 さすがの「ZARA」も採算をとるのが難しく退店になった物件のようだが、売り場面積は1階と2階の合計で560㎡。「モンクレール」の全カテゴリー商品が揃い、青山店の2倍の面積を誇る。地下もストックルームとして使用している賃借面積は200坪程度になる。

 売り上げ予想は出されていないので、以下推計してみる。現在の銀座の月坪家賃(1カ月の1坪当たりの賃料)は1階部分で優に30万円。同店の場合、2階部分、地下部分を平均して月坪家賃は25万円程度だろう。1カ月の家賃はトータルで5000万円、年間で6億円。売り上げに占める家賃比率を30%と予想すると損益分岐点は年商20億円程度ではないだろうか。

 すでに伊勢丹新宿店では年商10億円に届くという声も聞かれており、同店の年商20億円は十分に射程圏内ではあろう。

 オープンに先立つ内覧会に出掛けたが、ロサンゼルスの2人組アーティストのフレンズウィズユーとのコラボによる店装やコラボ商品が雰囲気づくりに一役買って、まるでアミューズメントパークを思わせるような店になっていた。

Friends with you

 2000年前後のラグジュアリー・ブランドのオープンラッシュの時にはこれに似たムードが店全体に溢れていたなあとふと思い出す。

 入ってみて自然に笑みのこぼれる店というのは最近稀で、久し振りに楽しい店を見たなという感じで、これなら今秋冬はラグジュアリー・ブランドのハンドバッグを買うのをやめて、ダウンジャケットを買い替えてみようかという気になるのではなかろうか。

 すでに売り上げの大半は秋冬だというような片肺飛行ブランドではないのは、この店のエンタテインメント性を見れば十分に理解できる。

 ラグジュアリー・ブランドに続く新時代のブランド・ビジネスとしてどのぐらいまでビジネス規模を拡大できるのかは大いに気になる。

                

(2015.11.1「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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