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仰天ニュースが飛び込んで来た。「グッチ」のクリエイティブ・ディレクターのフリーダ・ジャンニーニと同ブランドのプレジデント兼CEOのパトリツィオ・ディ・マルコが来年1月1日付で退任するというのだ。

(※右の背景画像:パトリツィオ・ディ・マルコ(左) フリーダ・ジャンニーニ(右)⇒

 「グッチ」を傘下にするケリングからの発表で、ディ・マルコの後任はグループ内のマルコ・ッザーリ=ラグジュアリー・クチュール&レザーグッズディビジョンCEOだという。

マルコ・ビッザーリ

 「グッチ」はケリングの屋台骨を支えるブランドであり、その年商は5270億円(2013年12月末決算時)に上り、同グループの三分の一を占める、いわば屋台骨を支える存在だ。

 実はこのフリーダとパトリツィオは公私にわたるパートナーであり、一児をもうけている。ブランドの雇われデザイナーと雇われ最高経営責任者が恋愛関係に陥ってしまうというのにも当時驚かされた。

 こういう社内恋愛にウルサイ日本の企業なら2人とも即解雇というケースもあるが、さすがにそうしたことには寛容なイタリア企業だなあと感心していたのだが、「グッチ」は昨年12月決算で前年を割った。

 営業不振ということならクリエイティブ・ディレクターをクビにすればいいだけの話である。フリーダの退任にパトリツィ反対したために両者とも退任になったのだろう。

    

 クリエイティブ・ディレクターとCEOもいっしょに退職というのは、パトリツィオもフリーダも美男美女であるから、まるでハリウッドの映画みたいだと言うのが正直な感想である。

 同時に、今回と同じように経営者とクリエイティブ・ディレクターが一緒にこのグループを去ったこと(2004年)を思い出した。ドメニコ・デ・ソーレとトム・フォードの2人組である。

トム・フォード

 この2人はやはり当時のPPR(現ケリング)のフランソワ・ピノー(現ケリングCEOのフランソワ・アンリ・ピノーの父親)と「グッチ」「サンローラン」を始めとしたグループの経営について意見が合わずに、袂を分かったのだった。

 その後は「グッチ」をアレキサンドラ・ファッキネッティ、「サンローラン」をステファノ・ピラティがそれぞれ受け持ったのだが、うまく行かずに、「グッチ」はアクセサリー担当だったフリーダ・ジャンニーに交代し、「サンローラン」は2012年にピラティーからエディ・スリマンにスイッチした。

 「サンローラン」はスリマンに代わってからようやく結果が出てブレークしている。フリーダに代わった「グッチ」はファッキネッティ時代の危機的状況は脱したがラグジュアリー・ブランド市場で「ルイ・ヴィトン」「エルメス」と並び立つ存在感を十分に主張して来ているかとどうかについては疑問がないわけではなかった。

 LVMHの1990年代後半のグッチ買収の動き(ギリギリのところで未遂)以来、なにかとライバル視されることの多い「ルイ・ヴィトン」と「グッチ」だが、前者は2013年アーティスティックディレクターを務めたマーク・ジェイコブスが退任し、後任にニコラ・ジェスキエールが就任した。

ニコラ・ジェスキエール

 この交代はなかなか好評をもって迎えられており、ライバルの「グッチ」としても傍観するわけにはいかなかったのではないか。

 フリーダはある意味「グッチ」の危機を救った女神ではあるが、彼女に10年間の長期にわたりクリエイティブ・ディレクターを任せるという判断は本来ケリングにはなかったのではないか。

 弊紙6月2日号には「『グッチ』での10年を振り返る」と題した記事でフリーダは、退任の噂について聞かれて「自分が60歳まで『グッチ』にいるとは思わない。しかし、今は『グッチ』とのハーモニーが確立されている」と冷静に否定しているし、ケリングのフランソワ・アンリ・ピノー社長兼CEOからもデザイナー交代は検討していないと直接言葉をかけてもらったし、契約も更新したと語っていた。

 10年が経過したフリーダに「グッチ」の顔としてデザイン以外のたとえばチャリティ活動など様々な仕事が増えていたのも事実だった。その矢先の退任である。デザイナーという存在の脆さを改めて感じさせた。

フリーダ・ジャンニーニ

 ラグジュアリー・ブランドのクリエイティブ・ディレクターはここ20年ばかりの間に確立された職種である。例えばジェスキエールのように自分のブランドは全く手掛けずに、「バレンシアガ」や「ルイ・ヴィトン」のようなラグジュアリー・ブランドの「再解釈」を仕事にしているデザイナーが出て来ている。

 もとはと言えば「フェンディ」「シャネル」といったラグジュアリー・ブランドを手掛け、その傍ら自分のブランドのデザインも行っているカール・ラガーフェルドがその嚆矢であると言っていいかもしれない。

 こうした生き方はまさにラグジュアリー・ブランドが圧倒的な存在になった現代特有の現象と言っていいかもしれない。

 デザイナーにクリエイティビティやオリジナリティは求められていないのだ。求められているのはアーカイブを再解釈して売れる商品を作る能力なのだ。だから10年も経つと、デザイナーは消費され尽くしてしまうのだ。

 デザイナーは交代し、新しいデザイナーによるそのブランドのアーカイブの再解釈がまた始まるだけなのだ。

 今後フリーダとパトリツィオの夫婦が「フリーダ・ジャンニーニ」というブランドを立ち上げて大成功するというサクセス・ストーリーはちょっと考えづらいが、「トム フォード」のようにぜひチャレンジしてほしいものだ。

                

(2014.12.25「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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