「windblue」 by MIDIBOX


 東京都中央区銀座――まさに「ブランド」にとっては、勝負の場所である。この地で、そのブランドの銀座店が成功するかどうかは、日本市場における死命を制する。

 もちろん、よりモード寄りのブランドは、銀座ではなく青山・表参道地区を選ぶ。

 例えば、デザイナーブランドである「コム デ ギャルソン」や「ヨウジ ヤマモト」、「マーク ジェイコブス」などクリエーションを前面に打ち出したブランドは南青山に旗艦店(フラッグシップショップ)を構えており、銀座にそうした店をオープンする素振りは見られない。銀座がある種持っている「大衆性」が敬遠されているのかもしれない。

 もちろん、いわゆる「ルイ・ヴィトン」「シャネル」「グッチ」「カルティエ」などの巨大ラグジュアリー・ブランド(伝統・歴史をベースにしてこれに現代的なファッション性を付加したブランド)にとっては、銀座・青山の区別はなく、両地に巨大な旗艦店をオープンしている。

銀座メゾンエルメス

 さて、2006年10月、11月にはこの銀座に、またラグジュアリー・ブランドの巨大店舗が2つオープンした。

 ひとつは10月28日に開店した「銀座メゾンエルメス」の別館(本館は2001年にすでにオープン。)と11月3日に開店した「グッチ銀座ビル」だ。

グッチ銀座ビル

 いずれも、店舗という枠をすでに越えてしまっていて、ビル丸ごとでエルメスワールド、グッチワールドを表現しているのが特徴だ。

 年々ラグジュアリー・ブランドのブティックは、その扱い品目の増加から、巨大化が進んでいるが、両ビルの売り場面積はそれぞれ1,510平方メートル(2館合計)、1,000平方メートルという巨大さである。

 エルメスは土地もビルも日本の現地法人であるエルメスジャポンの所有、グッチについては、ビルはもちろん所有しているが、土地については一時取得したもののすでに売却してリースバックしている。

                

 

 従来ラグジュアリー・ブランドの直営路面店を始めとした店舗の基本コンセプトは、「邸宅」(あるいはアットホーム)であった。

 そのブランドの顧客が、まるで自分の家もしくは友人の家でくつろぐように時間を過ごし、買い物をするという雰囲気が重要視されていた。

 もちろん、今回の2つのビルでは「邸宅」のコンセプトも、継承されてはいる。例えば、両ビル内に設けられたカフェ、アートスペース(銀座メゾンエルメス)、ギャラリーなどは、そうした役割を担ってはいる。

 が、両ビルの外観を見ていると、とても「邸宅」のイメージからは程遠い、あたりを睥睨(へいげい)するような、威風堂々とした偉容を誇っているのである。

 そこからは、ラグジュアリー・ブランドの「邸宅」と並ぶもうひとつの基本コンセプトがハッキリと浮かび上がってくる。それは「城」というコンセプトではないかと思う。フランス語で言えば、シャトーであり、イタリア語で言えば、カステッロである。

 自らの歴史と伝統を堅固に守り、周囲にある他のラグジュアリー・ブランドのビルやブティックとは別次元の存在であることを強く主張しているように感じられる。外観がガラス使いなのも、その少しばかり冷たく威厳ある外観の印象を強めている。その店内が人あたりの良い柔らかなイメージになっているのとは実に対照的である。

 言ってみれば、ブランドの持っているパワーを誇示しているように思えてならないのである。それは、ラグジュアリー・ブランド間の熾烈な顧客獲得競争を表していると言えないこともない。

「我々の城にいらっしゃい。この堅固な城は、あなたたちのラグジュアリーな欲求を必ず満たすことのできる確かな建物です。」

グッチビルのカフェ入り口

 かつて、高級宝飾店を始めとして、そのドアは顧客たちの優越感を満足させ、入店時からラグジュアリーな重厚感を感じさせるために、豪華にそして簡単には開けることが出来ないように重く作られていた。

 ドアの開閉のためにドアボーイを置くケースも多々あった。が、その企みはもはやドアだけではなくなったようだ。顧客たちは「城」への入場を促される。

 そして、一歩その「城」に入れば、そこには実にアットホームな雰囲気の中に、数々の宝物が購買を待ち焦がれているかのように陳列されているのである。

                

(2008.5.1「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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