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Story&Illust by 森晶緒
“Brown on Blue” by 佑樹のMidi-Room
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<soul-87> 色恋コレクション

 福喜の若々しいハリのある声に、迷いは微塵もなかった。

「流転。流転ってのはね、流れるってことさ。全てのものは流れる。そして還る。滞って立ち止まったあたしらも、流れの中に入るんだ。人には知りえぬ何処かへ、たどり着くかもしれないよ」

 子供への気遣いなどまるでない難しい言葉に、十勢はまだひぐひぐ鼻をすすりながら

「ごめんなさい・・・よくわかんない」

 素直に返答したが、ぼんやりと言わんとする意味を考えて、呟くように問いかけた。

「・・・流れるの?僕も?」

「そういうこった」

 若い福喜の笑顔は凛としていた。十勢の鼻のすする音は小さく小刻みになり、喉はゆっくりと飲み込む緩やかさができた。立ち上がらせてもらった雰囲気で、十勢は足に力を込めた。

 支えていた若く細面の佐山の手に触れて顔を上げた十勢は、潤んだ瞳で心を明かした。

 もう大丈夫。

 十勢の気持ちを理解した佐山は、緩く笑って肩から手を離した。

 代わりに力強くガシッと十勢の肩を引き寄せて、顔を腹にぎゅうっと埋めさせたのは清宮青年だった。佐山と違い、ずっと理解できずに不器用ではあったとしても、十勢をなだめて受け止めてきたのは清宮だったのだ。

 十勢は、清宮にしがみつきはしなかった。だが押しつけられた顔を窮屈がらず、思いの強さに黙って顔を埋めると、力んで持ち上げていた肩はするりと落ちていた。

 明は不思議な気持ちで若返った幽霊連中を見た。

 もちろん真野も後姿の十勢の事も。

 明は、この連中が、押しつけがましいのに何かに身を任せている。そんな気がした。

 どうしてそうなのかが、不可思議な鼓動を明の胸に打たせる。

 彼女・・フラれた彼女に感じていた気持ちとは違う。もっと柔らかくてしっかりとしたリズミカルな鼓動。

 彼女の事もすっかり意識から遠ざかっていた。

 だからこそ、余計に真野が気になる。

 まだ取り戻せるんじゃないか・・真野だけはこの世に・・・そう考えてついと歩み出たはいいが、まだ残る気恥ずかしさから逡巡するのを止めて話題を逸らした。

「清宮さんて、東北のどこ出身?」

「何がですか?」

 純朴そうな激しく熱い訛りが嘘だったように、イントネーションも流暢にシレッと微笑み、清宮青年はまだ十勢を抱きしめたまま顔だけ上げて空っとぼけた。

 明は思わずこぼす。

「徹底してんなー」

「出身なんて田舎だろうが、それこそ隠す事かね」

 ツテが冷やかすと、清宮は再び凪の表情を浮かべ

「コンプレックスが多少ありますし、私はどちらかと言えばグズなんですよ」

 そう言って爽やかにニッと笑顔を見せるにとどまった。

 希和子が、半ば呆れながら

「私より上手ねー。男としてはつまらない」

 面白くなさそうな台詞に明は聞き咎めた。

「ええ!?この色男ハンサムっすよ?どう言う基準なんだか・・・」

 明の方が呆れていると、希和子は美しい顔の口をすぼめて愛らしい仕草で、鈴の音の声をころがした。

「だって私より上手って可愛げがないんだもの。手数も芸の内。イイ人の色の一人なら数えたこともあったけど。他の相手の箸休めくらいにはなるでしょ?最終的にはできれば生かさず殺さず骨抜きにしてみせたものよー。面白くはないけど、コレクションみたいなものね。色恋なんてどこでどう転ぶかわからないじゃない?」

 微笑ましく思い出す希和子の悪びれもしない男性遍歴の一端に、説得力があり過ぎる容姿がより一層凄みを帯び男一同は固まっていた。

 清宮でさえも、笑顔が凍り付いているところで、仙吉が力こぶを擦りながら寒気を露わにボヤいた。

「般若だ般若」

「鬼ってこと?」

 清宮の腹から顔を脱出させ、十勢がキョトンとして聞き返すのに、先ほどまでの緊張が解かれて、一同は安心して、又笑いに包まれた。

【2016.11.25 Release】TO BE CONTINUED⇒

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