その256
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  遠い記憶 (詩:大和伸一)※補作:葉羽

 ある作家のエッセイで
 遠い昔に亡くした兄と一緒に
 山歩きした思い出話を読んでいて
 ふと 弟を連れて北八ヶ岳へ登ったことを思い出した

 かれこれ40年程前
 雪山へ登る奴の気が知れないという弟を連れ出し
 いつもの新宿発長野行きの最終に乗り
 満席の中、床に新聞紙を敷いてゴロ寝

 まだ夜が明けない茅野で降りて
 今度は寒い中、渋の湯までバスに揺られ
 やっと明るくなりかけた頃、登山口に到着

 出立(いでたち)といえば
 弟はスキーファションにスノーシューズ
 こちらは完全冬装備
 無言で歩き始めると
 しきりに寒い寒いと後ろでボヤいている

 空は抜ける様に青く
 遠く南アルプスの稜線に朝陽が当たり
 薄紅からピンクへと
 綺麗なグラデーションがかかってくる
 それを見た弟は 感動して
 一生懸命言葉を探している

 やがて風が出てきたので
 大きな岩の陰でザックを下ろして珈琲タイム
 コンロで溶かした雪で湯を沸かし
 大事に持っていった豆をフィルターで濾す

 すると
 先程まで寒いとボヤいていた弟が、
 一連の仕草を見ながらボソリと一言
「雪山が好きという意味がわかったような気がするヨ」

 来週からは春の陽気だという
 フッとまた雪山に登りたくなった

Poem by 大和伸一(補作:葉羽)
 MP3 by フリー音楽素材花鳥風月 “紅色の風”
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   Photo by 大和伸一"夜明け前"

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