その10 老母の遺品
「なんで連れて来なかったべか・・」
81歳の母の遺体は、避難用リュックを背負った姿で発見された。
リュックには家族が誰も知らない預金通帳や証書があった。
名義は息子2人の嫁や孫たちだった。
※陸前高田市で避難所に指定されていた市民体育館に母が逃げ込んだのを確認し、息子は別の家族たちの救出に向かった。しかし、体育館自体が津波に呑まれ帰らぬ人となった。年老いた母は、家族名義で蓄えた預金通帳を何よりも大切に持ち出していた。