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《Web版》岸波通信 another world. Episode42

嘆きのイブ


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2014.6.15】
   ※背景画像はミトコンドリアの内部構成)⇒

  Sadness of Eve

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

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“どこまで行けるか確める方法は唯一つ。すぐにでも出発して歩き始めることだ。” ・・・アンリ・ベルクソン

 岸波通信anther world.の「二酸化炭素ミステリー」の書き出しに人類と淡路島の話を書きました。

 妻のケイコが聞いた話として「人類を全員ギュッと集めると、淡路島くらいの面積に入ってしまう」と・・・。

 アクセスが集中しだしてから、ウラもとらないで安易に書いたことを後悔し、慌てて調査をいたしました。

 すると・・・

淡路島

淡路島

←60億人を集めるとこのくらいで足りる。

 手元の地図帳によると、淡路島の面積は593平方キロメートルとありましたので、これを平方メートルに直せば、1,000,000倍して、593,000,000平方メートルとなります。

 世界人口は約60億人(6,000,000,000人)ですから、1平方メートルにぎっちり10人を詰め込めば、確かに淡路島の広さくらいで間に合う計算になります。

(※この記事は60億人時点で書いたものです。2014年6月現在ですと71億8900万人になります。)

 この数字を聞いて、意外な想いをしたのは僕だけでしょうか?

 凄く多いようでいて、意外とそうでもないような気もしてくる人間の数・・・では、その60億人の“最初の先祖”が突き止められたという話から。

 

 

1 ミトコンドリア・イブ

 人間のDNAが全て解析されてから、驚くべきことが明らかになってきました。

 その中でも特に世の中を驚かせたのは、1987年、カリフォルニア大学バークレー校のレベッカ・キャンとアラン・ウィルソンのグループによってネイチャー誌に発表された“ミトコンドリア・イブ仮説”でしょう。

 現在の全ての人類の共通の祖先は、約20万年前にアフリカで誕生した一人の女性(イブ)だというのですから。

←(正確には、約16±4万年前の誤差を含むので、「最大で20万年前」ということになる。)

 さて、何故そんなことが判るのでしょう?

 人間の細胞の中にあるミトコンドリアのDNAは、母親のものだけが子供に受け継がれるのだそうです。

ミトコンドリア

ミトコンドリア

←母親のものだけ遺伝する。

 このミトコンドリアDNAのうち、Dループと呼ばれる500個ほどの塩基配列を全人種にわたって調査し、突然変異が起こる確率を計算すると、(最大で)約20万年前には一つのDNA(イブ)であった結論になるそうです。

 また、DNAの突然変異によってイブから枝分かれした人類は、35種類のクラスターに分類されます。

 そのうちの13種類はアフリカ人のもので、世界人口の約1割しかいないアフリカ人がクラスターの4割近くも占めているのです。

 これも、人類の母「イブ」がアフリカに生まれた所以(ゆえん)でしょうか。

←(ここも正確を期せば、「現生人類の最も近い共通女系祖先」がミトコンドリア・イブということで、彼女の女系祖先はすべて「現生人類の共通の女系祖先」でもある。その中で「最も近い」のがミトコンドリアイブである。)

発掘化石から見る人類拡散の奇跡

 では、その後の人類はどのような運命を辿ったのでしょう?

 そして、男性は?

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2 文明への道のり

 実は、イブばかりでなく、男性の先祖もわかっています。

 男性の場合は、染色体で先祖が推定できるのです。

 女性の持つ染色体はXX、これが男性ですとXYも・・・そうです、「Y染色体」は男性しか保有できないのです。

 これも、ミトコンドリアと同じように研究した結果、男性の先祖は、約6万年前のアフリカ起源であることが判ったそうです。

←(ミトコンドリア・イブの同時代にも当然ながら男性がいた。また、イブ以外の女性もいた。「現生人類の最も近い共通男系祖先」が6万年前の「Y染色体アダム」であり、彼の祖先もすべて「現生人類の共通の男系祖先」であるが、彼らの中にイブの配偶者は居ない。別系統。)

 ミトコンドリア・イブから生まれた人類は、その後、順調に増え続け、10万年ほど前には500万人になりました。

 しかし予期せぬ出来事が起こります。

 「氷河期と超大陸」でもご紹介したように、地球は約11万年前から氷期へ移行したために、彼らの食料は枯渇しつつあったのです。

 食が得られないアフリカの地に見切りをつけた彼らは、10万年前からシナイ半島を渡って、世界中に拡散して行きました。

 まさに、人類最初の「出エジプト」と言えるでしょう。

モーゼの出エジプト

モーゼの出エジプト

(システィーナ礼拝堂壁画)
ボッティチェリ作

 しかし、ユーラシアの肥沃な大地に移住して安住の地を得たかに見えた彼らを襲ったのは、またも想像も付かないような天変地異でした。

 今から7万3千年前、スマトラ島にあるトバ火山が、とてつもない噴火を始めました。

 過去10万年間では最大級の噴火で、その後、火山灰が太陽光を遮ったために地球の平均気温が3度から3.5度も低下したのです。

 ヒトDNAの解析によれば、7万年ほど前までに人口が1万人以下まで激減したと言うのですから、殆ど壊滅的な打撃です。

←(スマトラのトバ湖は、この名残のカルデラ湖とされています。)

トバ湖の夜景

トバ湖の夜景

(スマトラ島)

 約1万2千年前に最後のウルム氷期が終わると、今度は温暖な間氷期が訪れました。

 そして1万年ほど前に農耕技術を獲得し、ようやく人類は飢餓の恐怖から逃れることができたのです。

 こうして地球人口は再び増加して1000万人の大台に乗り、約5千年前には、黄河やインダス川、ティグリス・ユーフラテス川、そしてナイル川の流域で文明が花開きました。

 さて、文明が築かれた以降の地球人口は、どのように推移したのでしょう?

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3 消えた「人口爆発」の謎

  歴史家ポール・ケネディが著した『21世紀の難問に備えて』によれば、紀元元年頃の地球人口は約1億人だったとされています。

 意外と少ないものです・・・。

 1億人と言えば、1平方メートル10人として100平方キロメートル・・・つまり、福島県の猪苗代湖(東西約10キロメートル)で間に合ってしまうのですね。

 起源200年頃の三国志の時代では、赤壁に向かった曹操の軍勢が「曹軍100万」と称されていますが、それは人類の1%というとてつもない数だったことになります。

三国志の世界

三国志の世界

 さらにこれが、西暦1000年に至ってもまだ2億人(人口増加率7%)しかいないのです。

 時代は一気に下って、20世紀の初め・・・それでもまだ地球人口は16億人です。

 ところが、第二次世界大戦後、「人口爆発」と呼ばれる現象が起きます。

 1950年に25億人まで増加していた地球人口は1970年に37億人となり、1987年には遂に50億人を突破したのです。

 その後も、毎年9千万人という驚異的なスピードで増加を続け、2000年に公表された国連人口統計では、21世紀半ばまでに93億人に増加すると予測されました。

 しかし現在は、20世紀末のように「人口爆発」が取り上げられることは少なくなりました。

 それと言うのも、1994年のカイロ会議で合意された「各国政府主導による人口増加抑制のための家族計画プログラム」によって、いわゆる「リプロダクティブ・ヘルス」(主として女性の健康の視点から家族計画サービスを普及すること)が進められたことや中国の「一人っ子政策」に見られるように、公的な人口管理が成果を上げたと言われるからです。

 ならば、イブの子孫たちは、本当に健全な繁栄の道を歩んでいるのでしょうか?

 国立社会保障・人口問題研究所の阿藤所長は、「人口問題」が取り上げられなくなった原因について以下のように指摘しています。

(国立社会保障・人口問題研究所長の阿藤氏のサイトより引用)

 国際機関・援助団体の関心がリプロ・ヘルスに含まれる他の分野、とりわけHIV/エイズに集中し、それだけ家族計画への予算配分が弱まっているとの見方もある。

 さらに家族計画の普及が、人口開発問題の解決のためというより保健・女性政策の一環と位置づけられたため、途上国政府の所管が開発問題を担当する企画省から保健省へ移り、そのぶん政府部内でのプライオリティが低くなっているという指摘もある。

 筆者は、毎年、国連人口開発委員会に政府代表の1人して出席しているが、1999年の「カイロ+5」、すなわち国連人口特別総会までの委員会の熱気は、その後急速に薄れつつある。

 「カイロ+5」以後は、「カイロ+10」、すなわちカイロ行動計画の10年目の評価を目的とする大規模な国際会議開催の可能性を議論してきたが、大部分のメンバー国、とりわけ先進国にはそのような会議開催への意欲は全くみられない。

~以下略。

 うむぅ・・・要するに、予算減少と政府機関のリストラで途上国当局が弱体化し、先進国は自国の「国益優先」と「テロ対策」でかまっていられないということか・・・。

 20万年前にたった一人の母“イブ”から生み出された地球の人類。

 その子供たちは、あまねく世界に広がって、独自の言語、価値観、政治、宗教、肌の色、文化を有するようになりました。

 しかし、その“違い”ゆえに、仲間内のいさかいが絶えないのもまた事実・・・。

 イブは、このような60億人の子孫たちを、果たしてどのような想いで見守っているのでしょうか?

 

/// end of theEpisode42「嘆きのイブ」” ///

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《追伸》

 2014年のサイト移転に伴って記事の配置を見直す中で、この「嘆きのイブ」は『岸波通信(本編)』から『通信another world.』へ移植いたしました。

 人類最初の女性イブ・・・でも古ヘブライ神話によれば、人類最初の女性はアダムと共に土から創られたリリスこそが最初の女性とされています。

 このあたりの経緯は、another world.Episode9「ミステリアス・ムーン(後編)」で書いたところですが、二人は“愛の体位”に関して意見が折り合わず、リリスは逃げ出してしまうのです。

 やもめとなったアダムを見るに見かね、神はアダムの肋骨を利用して後添えのイブを創って彼に与えました。

 さて、それではリリスはどこへ行ってしまったのか?

 リリスは紅海の方へ逃げのびて、そこで別な伴侶との間に何千人もの子をつくったとされています。

 「おいおい、聖書の中で最初の男性はアダムだけじゃないのかい?」とツッコミが聞こえてきそうですが、もし仮に、リリス伝説こそが最初にアフリカから出エジプトした人類を暗示するものであったとするならば、そこには、既に別の人類が存在していたはずです。

 もちろんそれは存在していました・・・つまり、ヨーロッパを中心に繁栄していたネアンデルタール人です。

 彼らは約3万年前に絶滅するのですが、驚くべきことに、ネアンデルタール人の脳は現代まで生き残った我々人類よりも重く大きかったのです。

 もし、ネアンデルタール人とリリスの子孫たちが生き残っていたとするならば、我々人類よりも高度な文明社会を実現していたかもしれませんね。

 

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

Adam&Eve

Adam&Eve

(by Albrechtdurer)

 

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To be continued⇒ “Episode43 coming soon!

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