<<INDEX | <Back Next>
《Web版》岸波通信 another world. Episode25

地球の果て


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2006.12.11】
   (※背景画像は地球)⇒

  The origin of life

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

line

 “全ての道はローマに通ず”という言葉があります。

 これは古代ローマ帝国の為政者たちが自らの栄華を誇って言った言葉ですが、ローマのどこが帰着点なのかご存知でしょうか?

 彼らは、全ての道はローマの主要国道であった“アッピア街道”に繋がると考えていたのですが、そのアッピア街道の出発点は下の“サンセバスティアーノ門”でした。

葉羽古代名は“アッピア門”です。

サンセバスティアーノ門

←(始まりの場所。)

 つまり、全ての道はサンセバスティアーノ門から始まると考えられていたのです。

 一方、地球上の動物や植物は、それぞれの大陸で進化を遂げて来ましたが、その根源を辿るとある一つの場所に行き着くのです。

 ・・・それは、いったい何処なのか。そして、何故なのか?

 ということで、今回のanother world.は「地球の果て」です。

 

 

1 ロスト・ワールド

 ロスト・ワールドというと、1997年にスピルバーグが映画化した『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク2』が有名ですが、もともとこれは別の小説のオマージュとして付けられたタイトルです。

 オリジナルの小説は、1912年に発表された「ロスト・ワールド(邦題:失われた世界)」で、その作者は英国のコナン・ドイル。

 ・・・そう、あの史上最高の名探偵「シャーロック・ホームズ」シリーズを書いた人物です。

アーサー・コナン・ドイル

アーサー・コナン・ドイル

←(名探偵シャーロック・ホームズの生みの親。)

 彼は、エドガー・アラン・ポーと共に現代推理小説の生みの親とされているので、SF小説も書いていることにビックリされるかも知れませんが、もともとミステリー、SFのほか歴史小説や戯作など幅広い活動をしている作家なのでした。

 ドイル版「ロスト・ワールド(失われた世界)」では、古生物学者のチャレンジャー教授が「アマゾンの奥地に絶滅したはずの恐竜が生きている」と主張し、現地に実地探索に向かいます。

 探検に同行するのは、世界的冒険家ジョン・ロクストン、学会で敵対しているサマリー教授、そして、失恋して自暴自棄になっている(死んでもいい?)新聞記者のマローン・・。

 僕は昔、この小説の児童向け翻訳書「きょうりゅうの世界」を読みましたが、子供心にも、未知の世界へ挑む血沸き肉踊る冒険譚に没頭した記憶があります。

葉羽“インディ・ジョーンズ”もこれが下敷きなんじゃないかなぁ・・。

ロスト・ワールド(失われた世界)

 ところで、この「ロスト・ワールド」の舞台になった場所は、南米大陸ギアナ高地のテーブルマウンテンがモデルと言われています。

 小説が発表された20世紀初頭のギアナ高地は、まだ人跡未踏の地。

 しかし、現代では、外界から隔絶された独自の生態系など不思議な場所であることが確認されています。

line

 

 

2 ギアナ高地

 ベネズエラのギアナ高地は“ギアナ盾状地”とも呼ばれ、ほぼ垂直に切り立ったテーブルマウンテンが100以上も点在しています。

 このエリアは総面積が3万平方キロメートル以上あり、日本で言えば中国地方に匹敵するほどの巨大さです。

テーブルマウンテン(ギアナ高地)

 そのうちの一つ「ロライマ山」(標高2810m)がドイルの「ロスト・ワールド」のモデルとされている場所で、ここを含むベネズエラのカナイマ国立公園は、1994年に世界遺産にも登録されました。

 このカナイマ国立公園の面積は四国の約1.6倍もあり、切り立った崖で外界から遮断されているために、独自の生態系を持ちギアナ高地で確認されている植物は約4000種、その中の75%が固有種です。

 さらに奇妙なことに、ここのジャングルを流れる川は全て赤い色をしています。

 この色は、この地の植物から排出されるタンニンに由来します。

 また、Episode23「月への階段」でもご紹介したエンジェルフォールは、別のテーブルマウンテン「アウヤンテプイ山」(標高2560m)にあります。

葉羽アウヤンテプイは、現地の言葉で“悪魔の棲む場所”という意味。悪魔の棲む場所に天使の滝があるというのも面白いです。(※エンジェルフォールは発見者の名前をとって名付けられました。)

アウヤンテプイ

(ギアナ高地)

 エンジェルフォールは落差が978mもある世界最長の滝として知られますが、「月への階段」では大事な事を書き忘れていました。

 このエンジェル・フォールには、何と“滝壺”が存在しないのです。

 つまり、1千メートルもの長い距離を落下する途中、滝の水は文字通り“雲散霧消”してしまい、空中の霧となって消失してしまうのです。

エンジェルフォール(ギアナ高地)

 また、「これだけ高い場所に、絶え間なく流れ落ちる水量があること自体、不思議な感じがいたします」と書きましたが、その理由も判明いたしました。

 「ギアナ」という言葉は、もともと“水の国”という意味で、ギアナ高地には年間4,000ミリを超える降水量があるのだそうです。

 この豊かな天の恵みを享受して、テーブルマウンテンの上部には碧の森林が生い茂り、下界に命の水を供給しているというわけです。 

 そして、このギアナ高地には、さらに不思議な場所が存在します。

line

 

 

3 サリサリニャーマの巨大穴

 テーブルマウンテン上の世界は、切り立った崖によって下界から隔絶され、独自の進化を遂げました。

 例えば、ギアナ高地に生息する植物7000種のうち75%がこの地域だけの固有種だと言われます。

 そんなテーブルマウンテンの一つに「サリサリニャーマ」(標高1350m)があります。

サリサリニャーマ

(ギアナ高地)

 そして、このテーブルマウンテンには不思議な大空洞が存在していたのです。

 穴の大きさは大小様々ですが、大きなものでは直径・深さとも約350メートル程度のものがあります。

 東京タワーがすっぽり入ってしまうくらいの深さなわけです。

 その底には、テーブルマウンテン上の世界からもさらに隔絶され、独自の進化を遂げた「秘境の森」が存在していたのです。

サリサリニャ―マの巨大穴(ギアナ高地)

 この奇妙な山は、現地の人たちから「魔物の棲む場所」として恐れられており、その魔物は近づく人間を捕らえ、その脳みそを「さりさり」と音を立てながら食べると信じられています。

 そう、それが「サリサリニャーマ」と呼ばれる名称の由来。

 この巨大穴については、1974年にエクアドルの研究家C・ブリュワー・カリアスが初めて調査を行い、2002年には、彼と共にNHKの取材陣が再び穴の底に降りて取材を敢行しました。

 その状況は、2002年7月にNHK-BSで放映されたほか、「NHKドキュメンタリー“ギアナ高地巨大穴の謎に迫る”」として出版されました。

 そして、以下がギアナ高地に生息する珍しい動植物たち。

コロギス

コロギス

(ギアナ高地)

←コウロギとキリギリスの特徴を併せ持つ。

ヘリアンフォラ ヌタンス

ヘリアンフォラ ヌタンス

(ギアナ高地)

 ←食虫植物。筒状の葉に酸性の液をためる。

モウセンゴケ

モウセンゴケ

(ギアナ高地)

←これも食虫植物。
水玉の甘い香りで虫を招き寄せる。

 そうそう、サリサリニャーマで「サリサリ」と啼く魔物、その正体こそこの鳥です。

アブラヨタカ

(ギアナ高地)

 このアブラヨタカは、この巨大穴に無数に棲息しており、彼らが集団で啼く時、この世のものとは思えない「サリサリ」の音が周囲に響き渡るのでした。

 まあ、その姿自体も恐ろしげではありますが。

 さて、それでは何故、このギアナ高地が「地球の果て」なのでしょうか?

line

 

 

4 始まりの場所

 今から約20億年前、地球上にヌーナ大陸という最初の超大陸が形成され、その後、プレートテクトニクス(大陸移動)によって集合離散を繰り返しています。

 そして、5億4千万年前、南半球に現在の南アメリカ大陸を含むゴンドワナ大陸という超大陸が出現しました。

 現在の生物の祖先がいっせいに誕生した“カンブリア紀の生命爆発”は、その直後のことで、そうした生物たちを乗せたまま、再びゴンドワナ大陸は分裂をしていきます。

 ギアナ高地が属する地域は、ちょうどこの大陸移動の回転軸の位置にあり、ゴンドワナ超大陸時点からほとんど移動していないと推定されているのです。

ゴンドワナ超大陸

(約2億年前の地球)

←北のローラシア大陸と
一体化した後、

再び分裂を始めた頃の状況。

 つまり、ギアナ高地は大陸移動の特異点にあたる場所で、カンブリア爆発で誕生した生命のDNAを直系として進化させた地域と呼べるのではないでしょうか。

 これが、僕がギアナ高地を「地球の果て」(生命が出発した場所)と考える理由です。

 全ての「道」はローマではなく、この場所に繋がっているのです。

 もちろん地球史の上では、約6500万年前の恐竜の大絶滅など数次に及ぶ生物種の大絶滅を経ているわけですが、それにもかかわらずギアナ高地の生態系は数千万年に渡って静かな進化を辿っています。

 ところが、近年、ギニア高地の大自然を目的とした観光が盛んになり、観光客の靴に付いた域外植物の種子などによって、生態系に変化が現れているのだそうです。

 そこは、人間が触れてはならない場所なのかもしれません。

 ギニア高地という生命のサクチュアリ(聖域)を本当の意味のロスト・ワールド(失われた世界)にしないためにも。

 

/// end of theEpisode25 「地球の果て」” ///

line

 

《追伸》

 さて、一方の“宇宙の果て”・・・

 Nature誌の2006年9月号に、最も遠い銀河の記録が更新されたという記事が載りました。

 日本の国立天文台の研究グループが発見した新たな“最果ての銀河”までの距離は128億8千万光年。

 この宇宙がビッグバンによって開闢してから、約7億8千万年後に誕生した最古の銀河です。

 何て気の遠くなるような時間と距離でしょうか。

 この世で最も速い“光”でさえ、128億8千万年の旅をしなければ我々の地球に到達できなかったのですから。

 とうことは、観測された“最果ての銀河”は、128億8千万年前に誕生した当時のイリュージョンという訳です。

 現在、存在しているかどうかさえ定かではありません・・。

 

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

新・最果ての銀河

新・最果ての銀河

(すばる望遠鏡画像)

←今回発見された宇宙で最も遠い銀河IOK-1

(8秒角四方の最終拡大画面の
中央にある赤い銀河)

 

eメールはこちらへ   または habane8@ybb.ne.jp まで!image:Dragon  
Give the author your feedback, your comments + thoughts are always greatly appreciated.

 

To be continued⇒ “Episode26 coming soon!

PAGE TOP


  another world. banner Copyright(C) Kishinami Yasuhiko. All Rights Reserved.