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《Web版》岸波通信 another world. Episode15

異形の地球


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2004.9.11】
   (※背景画像は、「スーパー地球想像図」)⇒

  Super Earth

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」、岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

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 この夏、一時帰国した台湾のJUNを交えて大学時代の友人たちと飲んだ時のこと、「岸波通信」の話になりました。

 そのうちにGOTOが一言…「最近アレ出てないな。ホラ、宇宙のやつ。」  

 おっと、そう言えば、another world. は5月半ばの「天空のイリュージョン」以来ご無沙汰だった。

 何せanother world. は、よほどゆとりのある時でないと書けないのだよ。

エイ星雲の美しい映像

エイ星雲の美しい映像

【Henize 1357】
(ハッブル望遠鏡最新映像)

←9月9日に公開された美しい映像。
まるで、宇宙のネオンサインのよう。

 ところが先月、MIZO画伯ら中学時代の同級生と飲んだ時、「アレよかったよ、ほら星の通信。」と、またまた話題になりました。

 そっかー、Dreamさんやfujikoさんも待ちわびてると言うし、ようやく少し余裕のできたところだし・・・。

 “それでは”と秘密の情報サイトにアクセスしてみると・・・「地球同様の組成の太陽系外惑星、初めて発見」という記事が目に飛び込んで来ました。

 ほんの一週間前にあった天文学上の大発見。そして、その惑星に科学者たちが付けた名前は、何と「スーパー地球」なのです。

 そういえば昔、松本零士のSF漫画「ワダチ」に「大地球」ってのも出てきたっけ・・・。

 ともあれ、これも何かの巡り会わせ。早速、その話を書こうじゃないかと考えた次第。

 ということで、今回のanother world. は、“地球外文明探査プロジェクト”の最初の足がかりとなるファンタスティックな大発見についてお届けします。

 

 

1 2000億の世界

 誰しも子供の頃は、「この広い宇宙には、人類よりも数段進んだ文明を持った宇宙人がいるに違いない」と考えていたのではないでしょうか?

 手塚治虫のSFワールドにどっぷりと浸かって育った僕らの世代は誰もがそう。

 そして、ある日テレビを見ると、そこには月を歩いてる飛行士がいたのです。

月面のオルドリン飛行士

月面のオルドリン飛行士

(1969年/アポロ11号)

←人類初の月着陸を達成。
21kgの月の岩石を持ち帰った。

 人類が限りない可能性に夢を見ていた時代。

 日本で開催された始めての国際博覧会、1970年のEXPO'70(大阪万国博覧会)に展示された月の石を一目見ようと多くの人が熱狂した時代・・・。

 しかし・・・当時はまだ太陽系以外の恒星に、本当に太陽系のような惑星があるかどうかさえ確認されてはいなかったのです。

 僕たちが夜空に見上げる星々は、太陽系の惑星等を除けば全て恒星です。

 その明るい恒星の間近にある暗く小さな惑星を見るということは、どんな望遠鏡をもってしても容易なことではありません。

 現在、最果ての銀河を見ることができるハッブル宇宙望遠鏡でさえ、太陽系外の惑星の姿は、暗すぎて直接には識別することが困難なのですから・・・。

ハッブル宇宙望遠鏡

ハッブル宇宙望遠鏡

(書籍の表紙)

←タイトルバックの写真がハッブル宇宙望遠鏡。

 NASAの宇宙開発において、長年、指導的な役割を果たしてきた故カール・セーガン博士は、地球外生命に関する分析の手法として数学と論理学を用いました。

 平たく言えば、統計学的手法で推計したということになるのでしょうか。

 その結果、僕たちの天の川銀河だけでも、少なくとも2000億の恒星があり、そこに約100万の技術文明が存在してしかるべきだと予言しました。

 そのセーガン博士が亡くなったのが1996年のこと。

 そして、最初の太陽系外惑星が発見されたのは、その前年1995年のこと・・・そう、今からたった10年前の話なのです。

 セーガン博士の予言実証の一端は、彼の存命中にかろうじて間に合いました。

カール・セーガン

カール・セーガン

 では、ハッブル宇宙望遠鏡でさえ識別できない太陽系外惑星はどのようにして発見されたのでしょうか?

 それには、恒星が発する光の“ふらつき”を観測するという間接的な方法が採られました。

 恒星の近くに大質量の天体(惑星)が存在すると、惑星のある方向に引っ張られて恒星の運行が干渉を受けます。

 その恒星のふらつきは、恒星から発せられる光がドップラー効果を受けて、赤方変移や青方変移を定期的に繰り返す様子が観測できるのです。

 この手法を用いて、1980年代初頭から太陽系外惑星を観測しようという試みがスタートしました。

 そして、このようにして発見された最初の太陽系外惑星は、常識を覆す驚くべき姿をしていました。

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2 ホット・ジュピター

 1995年に、最初の太陽系外惑星を発見したのはスイスの天文学研究グループでした。

 彼らが“光のドップラー効果”を利用して、天の川銀河を観測していると、ペガサス座51番星と呼ばれる恒星で、遂に“光のふらつき”が発見されたのです。

 データを解析して、それだけの影響を与えるはずの惑星の大きさを割り出すと、木星(ジュビター)の半分程度の質量を持っていることが明らかになりました。

最初の系外惑星

最初の系外惑星

(NASAによる想像図)

 そして、主星からの距離は0.05天文単位。(「1天文単位」は地球から太陽までの平均距離。)

 ということは・・・

 地球から太陽までの1/20という超至近距離(750万km)に、木星の半分もあるような巨大惑星が公転していたのです。

 しかも、その公転周期は僅か4.2日。

 太陽系のような星系構成を“当たり前”のものと考えていた我々の常識は大きく覆されました。

 彼らの発見は、すぐさま翌年に確認され、一方で彼らのグループは、同様な方法で次々と太陽系外惑星を発見して行きました。

 現在(2004年9月)では、太陽系の近傍恒星系を中心に約130個の太陽系外惑星が発見されています。

 そして、その殆どが木星並みの質量を持つ巨大惑星で、主星の至近距離を超高速で公転している惑星です。

 こうしたタイプの太陽系外惑星は、“灼熱の木星”という意味でホット・ジュピターと呼ばれるようになりました。

ホットジュピター

ホットジュピター

←太陽の直近を回る木星型惑星。

 では何故、次々と発見される太陽系外惑星の殆どはホット・ジュピターなのでしょうか?

 そもそも我々の太陽系の方が“稀有な存在”で、宇宙の多くの星系はそれが当たり前のことなのでしょうか?

 いいえ、そうとは限りません。

 そもそも、“光のドップラー効果法”を使う以上、ホット・ジュピターのように主星に大きな潮汐作用を及ぼす大きな惑星が発見されやすいのは自明の理です。

 つまり、見つけ易いものから見つかっているということでしょう。

 このようにして発見されたホット・ジュピターの中には、さらに驚くべきものがありました。

 それは、下の画像のオシリスで、豊富な酸素と炭素の大気を激しく蒸発させながら主星の周りを周回していたのです。

ホットジュピター「オシリス」

ホットジュピター「オシリス」

(NASAによる想像図)

←大きさが木星の1.3倍、
質量が木星の0.7倍で、
恒星からたった700万キロメートル
(太陽から 水星までの8分の1)の
軌道を3.5日で公転。

酸素と炭素を激しく蒸発させているため、
ハッブル望遠鏡で、
その姿が直接に観測できた
初めてのホット・ジュピター。

 酸素と炭素が確認されたことも画期的ですが、その激しい蒸発雲を伴って恒星の前面を横切ったため、何と・・・ハッブル宇宙望遠鏡から、その姿が「直接に」確認されたのです。

 なお、宇宙物理学では、木星のような巨大ガス惑星が主星のすぐ近くで誕生することはあり得ないとされています。

 ホット・ジュピターの殆どは、極端な楕円軌道を描いて公転していることから、最初は遠方で形成された巨大惑星が何らかの影響で軌道がかく乱され、主星に近づいてしまったものと考えられています。

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3 スーパー地球

 このようにして、太陽以外の恒星もやはり惑星を伴っているということが明らかになりつつありますが、それだけでは、太陽系外惑星探査の真の目的には近づいたとは言えません。

 真の目的・・・それは、地球外文明の発見にあるからです。

 星が生命を誕生させて文明を育むためには、主星からの適度な距離と安定した円軌道・・・つまり地球のような状態であることが望ましいと考えられます。

 ホット・ジュピターのような灼熱のガス惑星には生命誕生の可能性は高いとは言えず、やはり、生命を育むためには、僕たちの太陽系のように、複数の惑星が安定した同心円軌道で公転している必要があるのです。

 そして2003年3月、米国の研究グループがホット・ジュピターのあるかに座55番星に二つ目の惑星を発見しました。

かに座55番星で見つかった二つ目の惑星

かに座55番星で見つかった
二つ目の惑星

(NASAによる想像図)

 二つ目の惑星は、主星から5.5天文単位の安定した円軌道を持つ木星の数倍の大型惑星でした。

 つまり、ホット・ジュピターではない初めての太陽系型大型惑星の発見です。

 このような安定した円軌道の大型惑星が見つかったということは、同じように円軌道の~しかも地球型の岩石惑星も存在するのではないか・・・誰もがそう願ったでしょう。

 しかし・・・記念すべき最初の地球型惑星は、別の場所から発見されることになりました。

 2004年8月28日、ヨーロッパ南天文台(ESO)の研究グループが、チリのラシーヤ観測所の望遠鏡を用いて、これまでで最も小さい太陽系外惑星を発見したと発表しました。

 位置は太陽系から僅か50光年にある祭壇座ミュー星にある惑星で、このミュー星の周りには、周期650日で廻る木星質量程度の大型惑星がすでに発見されていましたので、この星系で二番目の惑星発見となります。

チリのラシーヤ観測所

チリのラシーヤ観測所

←見晴らしのいい山の頂にある。

 大きさは地球の約14倍で、地球のように大気を持つ初めての岩石惑星であることが確認されたため、研究者たちはこの惑星を「スーパー地球」と名付けました。

 その公転周期は僅か9.5日、表面温度は摂氏540度にも上るだろうということも発表されました。

(←原典を見ると、“super Earth-like object”とあるから、本当は「大きな地球型天体」くらいに訳すべきなんだろうが日本の報道ではこう訳されているね。)

 一方、この発表に対抗するように、三日後の8月31日、今度は米国航空宇宙局(NASA)が、米国のチームによって二つの「スーパー地球」が発見されたことを公表しました。

 その一つ目は、やはり、あのかに座55番星にありました。そしてもう一つは、太陽系から30光年離れたGliese436という恒星の周りで見つかりました。

 いずれも地球の20倍から30倍ほどの大きさで、主星の周りを2.5日から3日の周期で公転していました。

 ほんのちょっとしたタイミングで、ヨーロッパ・チームに第一発見者の名誉を奪われた格好です。

グリーゼ436のスーパー地球

グリーゼ436のスーパー地球

(NASAによる想像図)

 今回発見されたいずれの「スーパー地球」も、主星の周りを猛烈なスピードで疾走する灼熱の惑星で、地球と呼ぶにはあまりに異形の惑星であるに違いありません。

 ともあれ、地球外文明探査の第一歩として今回の発見の意義は大きく、これからも“Earth-like object”はどんどん発見されることでしょう。

 米国チームの一員としてGliese(グリース) 436のスーパー地球を発見したカリフォルニア大学バークレー校のジェフリー・マーシー博士は、次のように述べています。

 「地球とよく似た惑星はまだ発見できていないが、それらの大きな兄貴分の姿が見えてきている。まもなく、小型の惑星も突き止められるだろうと期待している。」

 さて、地球外文明とのファースト・コンタクトの日は、いつやって来るのでしょうか?

 

/// end of theEpisode15「異形の地球」” ///

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《追伸》

 冒頭で紹介した以外にも、another world. の新作を望む声は、多くの読者から寄せられていました。

 僕と同い年であり、僕の最好きなSFコミック作家の星野之宣氏が新作「ロスト・ムーン」上・下巻を発表したり、寺沢武一の名作「CObrA」をパクったに違いない話題作「リディック」が映画公開されたりと、宇宙の話が世をにぎわし始めた今日この頃、僕のanother world. の血もまたぞろ騒ぎはじめました。

 ということで、それを機にこのコーナーのインデックスもプチ・リニューアルし、心機一転を図りましたがどうだったでしょうか?

 天文学者たちは、2000億個の恒星を持つこの天の川銀河だけでも、岩石でできた地球のような惑星が200億個も存在する可能性があると考えています。

 そしてNASAでは、今後15年間に少なくとも3つの探査機を打ち上げ、これらスーパー地球をさらに詳しく探査することを計画しています。

 その一連のミッションの第1号となるのはケプラー計画で、2007年に太陽系外惑星探査機が打ち上げられることになっています。

 

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

スーパー地球の大きさ比較

スーパー地球の大きさ比較

【Gliese 436】

←Gliese 436に発見された惑星の
大きさを示すイラスト。
(※地球と木星との比較)

 

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To be continued⇒ “Episode16 coming soon!

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