その5
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  宿敵! 小笠原 (詩:葉羽)

 高校の頃といえば 小笠原を思い出す
 身体が小さくて 病弱な男だったが
 放課後になれば 無敵のヒーロー
 何と将棋だけは 無敗の王者だったのだ

 ところが僕も 腕に覚えがあるものだから
 負けん気を燃やして ある日対決を申し出た
 世紀の対決に クラスは騒然!
 辛くも二勝一敗で勝ち越した僕に
 彼はクールに言い放った・・

「今日のトコはこの辺で勘弁してやろう」(笑)

 

 それからの僕らといえば 宿命のライバル
 勉強もそっちのけで 将棋を指したものだ
 放課後ともなれば ギャラリーを従え
 日々 闘いに明け暮れる毎日

 ところがある日 彼は学校を休んで
 一週間たっても 学校に現れない
 不安になって 先生に尋ねると
 肝臓をわずらって 入院したのだという
 僕は驚いて天に言い放った・・

「小笠原、逃げたな!」(笑)

 

 それからの毎日というもの 僕は彼の病室通い
 雨にもマケズ 風にもマケズ
 あまり役に立たない 授業のノートと
 たわいもない学校の話とを たずさえて

 ところがある日 彼がウィンクしながら
 戸棚から持ち出したのは 何と将棋板
 僕は「お前、身体に悪いんじゃないか」と言いながら
 いったん勝負が始まると そこは手加減が出来ない性格
 それから彼を負かし続けて 病状は悪化の一途・・

「OH My GOD!」(笑)

 

 僕は 夏休み前の期末試験で 病院に行けず
 しばらくしてから 病室を尋ねると
 何と彼のベッドは カラになっていた
 僕は胸騒ぎがして ナースセンターに駆け込んだ

「い、いつ彼は亡くなったんですか?!」(泣)

 看護師のお姉さんに 問いただすと
 小笠原は 専門医のいる仙台に転院したという
 最後に負けた思い出が 僕の胸をよぎり
 だからつい 僕にあんな大声を出させた・・

「小笠原、勝ち逃げは許さんぞ!」(笑)

  ・・・(間奏)・・・

 

 そうこうするうち 二年が過ぎた
 僕はやがて 仙台の大学へと進んだ
 風の噂に聞いた病院を尋ねると
 小笠原は まだ闘病を続けていた

 僕の姿を 見つけるや否や
 彼は うれしそうに眼を細めた
 僕が来る事を予感していたのか
「待っていた」と言わんばかりに
 何やら大きな板を持ち出した・・

「小笠原、こんな升目の多い将棋板は反則だ!」(笑)

 

 もちろん持ち出したのは 将棋板ではなかった
 彼は笑いながら「今度は囲碁をやろう」と言う
 将棋では 僕に分が悪いと思ったのか
 彼はあれから 囲碁の勉強をしていたらしい

 それからの僕といえば 小笠原に連戦連敗
 考えてみれば 僕は定石を知らない
 彼の顔色は 通うごとに回復し
 彼が頑張り屋だったこともあって
 三年遅れで 僕と同じ大学に入学をした・・

「おめでとう小笠原!
 オレは・・オレは・・(うっうっ・・)」(涙)

  ・・・(間奏)・・・

 

 あれから時は ずいぶん流れたけれど
 僕は今でも 日曜の囲碁番組を見ている
 そんな時 ふと君の顔が浮かんで
 時間旅行をすることがある

 君は今頃 どの空の下で
 同じ番組を見てるのだろうか
 あいかわらず 元気でやってるのだろうか
 ありがとう小笠原 永遠のライバル
 僕は君に感謝しているよ・・

 いつの日かまた 出会えることがあったなら
 昔話に花を咲かそうじゃないか
 あのなつかしい 青春の思い出
 僕らの闘いは 永遠に不滅だよ・・

Poem by 葉羽
 MP3 by Scribbling Midi "街の詩”
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