<soul-78>　王子の接吻

　福喜は唐突に童話の話を持ち出した。

「そういやこんな話があったねえ 。
　お姫さんが王子様の接吻で眠りから覚めるとか言う」

「？？？はぁ！？何言って・・・・はああ！？」

「まあ、あんたにゃちょっと荷が重いかねえ？
　王子様って器にゃ見えないねえ」

「わーるかったな！！そんなんなりたくもねーっての！！
　そんな冗談言ってる場合じゃなくて！！」

「相手には相手の気持ちがあるよ・・・その時々で人には色んな面が出る。
　こうじゃなきゃ行けないって、 頑なに妄信する。それが一番恐い事かもしれないね。
　あの子が今そんな風なのさ・・・ 緩やかな関係があるって気が付きゃ、自然と許す許さないじゃないってわかりそうなもんだが・・・あんたにはちっとばかし難しい話しかい？」

「？？」

　 何のことやら良く分からない混乱する明に福喜は溜息を軽くついて、こぼした。

「理解できなくていいよ。 年長者の愚痴さね」

「そんな・・・・ 何言われてんのか・・・
　俺を試すつもりかよ？ 引っ掛け問題のつもりか？」

「何言ってんのさ？」

「だって さっきも あんた誘導しただろ？」

　バシイっと間髪入れずに福喜の平手が明の頭をかすった。

「『あんた』だって？ 偉そうな口効くあんたは何様だい？」

「いっつ・・・福喜さん！
　俺には不幸ひけらかすな、ぶちまけんなって言っておいてよお、 あの佐山さんの時、わざと挑発しただろ！？ 気が付いてたんだぞ！？」

　むくれる明に、福喜は眼光も鋭く、 暗さに明に表情は見て取れなかったが、口調は鋭かった。

「生きてるもんが全てをぶちまけるには、それなりの相手ってのが必要さ。
　お前には居なかった。しかも佐山はもう手遅れになるからね。
　あのままじゃ・・・・でもそれが良かったかどうかまでは、本当はあたしも知らねえのさ」

　明は口ごもった。 言い返したいが言い返せない。

　理屈が通っていると言うより、福喜の声の気迫の圧力に負けていた。

「あたしなりの生者と死者の論理さ。
　あの世とやらにまで、問題を持って行く必要はないってね」

　そう言うと福喜はバシッと話を締めくくった。

「真野がどう出るかもあたしにはわかんねんだよ。案外、あんた次第かもしれんしね」

「え？」

　福喜は思う所のある笑顔で、明を置いてスイーッと離れると、もう一度二階堂の方へ行って何やら話し込んでから、他の幽霊連中に習って奥に向かうと、どこから出して来たのか、木製の折り畳み式の間仕切りを広げて仕切り、幽霊全員の姿を隠した。

　唯一、真野を除いて。

【2014.5.10 Release】TO BE CONTINUED⇒