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Story&Illust by 森晶緒
“Brown on Blue” by 佑樹のMidi-Room
Site arranged by 葉羽

 

<soul-15> 成仏時期

 × × ×

 それから更に10分程が経過し………

  コンクリートの床に膝と手を着き、四つん這いでうなだれて、肩でゼイゼイ言っている明に、ほとほと呆れ返って真野が言い捨てる。

「やっぱこいつダメ過ぎじゃない!?」

 見兼ねた二階堂がドラムの向こうから声をかける。

「実際踊る時は音楽もヴォーカルも付くから。
 音に体を預ければ絶対大丈夫!!」

 ゼイゼイしていた明は、うなだれたまま深呼吸をして、何とか呼吸を整えると、ポツリと一言切り出した。

「……後2万」

「へ?」

 聞き取れず、すっとんきょうな声を出す二階堂を、顔を上げて睨み付けながら、明はわざと息も絶え絶えの様子で

「ハア、ハア……バイト代6万にして下さいよー
 ……ゴホッグホッ……じゃないと割に合わねー
 エヘッウホッゲヘッ……ハアハア…これ肉体労働じゃんゴホッ」

「すごい…ふっかけるなあ」

 と人事の佐山とは対照的に、

「ええ!?そりゃいくらなんでもボッタクリ」

 驚いて泡をくう二階堂。

 そのドラムの前に、ズズズイっと福喜がしゃしゃり出て来て、二階堂を背中で隠すと判定の宣言を下す。

「それ以上は出さないよ!!
後弱音吐くのもゴタゴタ言うのも無しって条件ならね!」

 二階堂は慌てて、

「おばあちゃん!?」

 福喜はこれ以上無い程憂いた口振りで

「来年まで又さまようのかねえ………」

「!?………わかりました」

 了承の返事とは裏腹に、眉間に皺を寄せて伏し目がちに押し殺した渋い声と顔をしている二階堂。

 明は今までへたばっていたのが嘘の様に跳ね起きると、機嫌良く、

「よっしゃ!!がーんばろっと。
 そうとなったら、ちょっと休憩。
 少し休まないと、も、ムリ。喉乾いた」

 そう言いながら、ネクタイを外す。

 明がまだ続ける気があるのが面白くなさそうに、真野は奥の方に行ってしまう。

「しょーがねーガキだねえ。
 みんなー!!一休みだよー!!
 うちのボンクラ孫が飲みもん持ってるはずだよ。もらいな!!」

 号令をかけて福喜が振り返り顎で二階堂をさす。

「ボンクラ……もういいですけどね……」

 ワラワラと休憩する幽霊達が、明の方に興味津津で集まって来る。

 その中で先頭切って助八が、悲惨とは全く無縁の明るさで二階堂に振り返りながら

「ひっどい言われ様じゃのー!あんた本当に実の孫か?」

「ママ孫じゃない?ママ孫。義理の孫って意味ね」

 露子がまんざら冗談ではない真面目な顔で意見を言うが、実は福喜以外の幽霊達が見聞きできない二階堂は、言われている事と関係無く、全て諦めた風に、しかし諦め切れずに渋い表情が更に渋くなりながら明にペットボトルを差し出す。

 その二階堂に歩み寄り、二階堂からペットボトルのミネラルウォーターを受け取ると、ゴクゴク飲みながらやっと一息ついて、ふとこぼす様に聞く明。

「来年て?」

 顔を見合わす近くの幽霊達に、我関せずとスススと腰掛けられる木箱がある倉庫の外れの方に行く当の福喜。

 いきなりひょいと明の前に出て来た希和子が答える。

「成仏時期って言うのがあるのよ、ぼうや」

 険しい顔で頭を傾けて、明は不信感丸出しで、

「成仏……時期?…ぼうや!?」

【2008.8.7 Release】TO BE CONTINUED⇒

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